《微微一笑很傾城》 第26章 みんな身内 | Silent Separation

Silent Separation

作者:顧漫

中国小説「何以笙箫默」(マイ・サンシャイン)の
日本語解釈文です。
ドラマとは若干異なっています。

Part26 みんな身内


その夜、ウェイウェイは小さな木製のベッドの上で何度も寝返りを打つ。

ルームメートたちはベッド越しのおしゃべリを終えるとすぐに眠りについたが、彼女だけずっと寝つけずにいた。何しろあんな1日を体験した後だ。たぶん眠れない方がまともであろう。

再度体の向きを変えるが眠れない。ウェイウェイは布団にくるまったままパッと起き上がると、膝に顎を乗せ、ため息を吐く。実際のところ、不安なわけでも落ち込んでるわけでもない。ただこのパンパンに膨らんだ気持ちは、ため息を吐くことでしか表せないような気がしたのだ。

まるで息を吐き出すことで胸の中が撹拌され、少しでも小さくできるかのように。

シャオ・ナイ。

頭の中に無意識のうちにあの人の姿が浮かぶ。じっとしている姿、動いている姿。話している姿、笑っている姿。すると吐き出したばかりのものが戻ってきて、また埋め尽くしたらしい。

掛け布団を抱えて長いこと座っているうちに、ウェイウェイはやっと少し眠気を感じたため、横になって、しばらく寝ることにした。うとうとしつつ隣りのベッドから物音が聞こえたが、その後熟睡して何もわからなかった。明け方になって、彼女は突然誰かに揺り起こされた。目を開けると、ベッド脇に立っているアルシーが目に入った。弱々しい顔つきで告げる。 「ウェイウェイ。私、3回も下痢しちゃった。もうダメ」

ウェイウェイはビックリして、すぐさま目を覚ました。慌ててベッドから下りると薬を探して飲ませるが、効果が見えない。アルシーは30分の間にまた2回も下痢をし、顔色はすっかり青白くなっている。シャオリンとスースーも物音を耳にして起きた。3人はただ事ではないと感じ、大急ぎで洋服を着替えると医師に診察してもらうためアルシーを連れて出る。

学校の夜間診療は頼りにならないと評判が低いことから、ウェイウェイたちもあえてそこは選ばず、西門から出て1台の夜間タクシーを止めると、近くの大きな病院にアルシーを連れて行った。医師は問診を行い、血液検査後に急性胃腸炎と診断し、水分補給が必要だと告げる。

 


アルシーが点滴を打ち応急室のベッドで眠って、ようやく3人はホッとできた。3人もここに残る必要はないため、相談の結果、先にシャオリンを帰し、ウェイウェイとスースーが付き添うことにする。

アルシーは点滴を打った後も2回ほど下痢をしたが、その後はかなり良くなった。これでやっとウェイウェイとスースーも仮眠する時間を持てる。しかしどうやっても寝にくくて、ウェイウェイはあまり眠れないまま目覚めた。アルシーも目を覚ましており、顔色はいくらか回復したようだ。ウェイウェイが頭を下げて時計を見たら、すでに7時だった。

アルシーが力なく言う。 「ウェイウェイ、夕べのあのおやつって、シャオ大神が買ったもの?」

「そうよ」

「ハァッ……神様のものはやっぱり食べちゃダメなんだね。私みたいな凡人の胃じゃ消化しきれない」

こんな格好をしててもまだ冗談を言えるなんて。ウェイウェイは笑うに笑えなかった。彼女は立ち上がって、アルシーが布団を掛け直すのに手を貸す。アルシーがシャオ・ナイを話題に出したことで、ウェイウェイは気が散って仕方なかった。今7時だから、大神に電話をかけて、待たないよう伝えなきゃ。なぜか今日、大神と一緒に自習しなくてもいいと考えたら、かえって心が安らぐ。

彼女の心はすでに病室にはなく、表情は少し揺らいでいる。アルシーは半分体を起こして、彼女をボンヤリ眺める。ウェイウェイが美人なことは知っているが、ずっと見てきて慣れてしまっていた。だけど今、ウェイウェイが突然こんな風に頭を下げて優しく布団を掛けてくれながら、瞳を輝かせて考え事をしてる表情はホント、かつてないほど美しい。

1人は立ち、1人は横たわり、2人はそれぞれ思いを抱いて沈黙している。突然部屋の光が遮られ、ウェイウェイは本能的に頭を上げてドアに目をやる。

シャオ・ナイが戸口に立って、深い眼差しで彼女を見つめている。

 


学校への帰りはシャオ・ナイが運転する車に乗る。ごくごく一般的でシンプルな車種だ。ウェイウェイは助手席に、アルシーとスースー、シャオリンは後部座席に座る。

帰り道、ウェイウェイはアルシーが小声でシャオリンに尋ねているのが耳に入った。 「どうしてシャオ先輩が来たの?」

シャオリンがひそひそと説明する。 「私がダーチョンに電話したのよ。そしたら彼がベラベラとシャオ先輩にしゃべっちゃったもんだから、それならば自分が運転して行った方がいいだろうって先輩が言って」

アルシーが心配で気が気でなさそうに言う。 「こんなのよくないと思う」

スースーが言う。 「そう縮こまる必要ないってば。シャオ先輩は身内だもん」

そんな会話を助手席で聞いていたウェイウェイの顔が曇る。彼女たちは自分たちの声が小さいと思って、こうも公然とデタラメを言うとは。身内ですって?あんたたち、馴れ馴れしすぎじゃない!

アルシーは相変わらず心配する。 「だけど大神の車よ。私たち凡……」

ウェイウェイはここまで聞いて、大神の車に凡人が乗ったら事故を起こすとか、そんなことを彼女が言い出しそうで恐くなり、慌てて後ろを向いて彼女の話をさえぎる。 「スースーの言う通り。身内、身内なんだから!」

車の中がたちまちひっそり静まり返る。自分がとっさに口にした言葉が招いたこの反応に、突然ウェイウェイは体を元に戻す勇気さえなくしてしまった。

隣りで存在感を薄くさせようと努力している誰かさんを笑顔で一瞥して、シャオ・ナイが口を開く。 「君たち、朝食まだなんだろ?帰る前に何か食べるかい?」

ウェイウェイはこの瞬間、心の底から大神にこの上なく感謝する。大神がまさか私に助け船を出してくれるなんて。思いやりがあるのね。カンゲキ。

シャオリンはウェイウェイを見た。彼女が無言でいる意図を察して、やんわり遠慮する。 「結構です。今日はもう先輩にたいへん迷惑をかけてしまいましたから」

シャオ・ナイが微笑んで言う。 「みんな身内じゃないか。遠慮はいらない」

ウェイウェイ 「……」

彼女は悟った。思いやりは浮き雲だったと……

結局は朝食を食べに行った。アルシーは食欲がないが、下痢で胃が空っぽだったのもつらくて、なんとか白粥を少しばかり口に入れた。食べ終わるとシャオ・ナイは丁重に彼女たちを寮の前まで送り届ける。

ウェイウェイはアルシーよりはるかに力ない足取りで寮に戻り、部屋のドアを開けると、そのままベッドに直行した。

もし時間を巻き戻せるならば、私は絶対口を開かない。沈黙は金!フーッ…… 睡眠不足が人間に及ぼす影響力がこんなに大きいとは。

 


ウェイウェイはベッドの上で悶々とし、昨夜より激しく寝返りを打つ。そしてゴロゴロころげ回っているうちにいつの間にか眠りについた。

12時までぐっすり寝て、食べ物のいい匂いで目覚めた。シャオリンがダーチョンにメッセージで頼んでおいた4人分の食事を階下まで届けてもらったのだ。もちろんアルシーはまだ白粥。

ウェイウェイは食事のためにベッドから這い下りる。驚いたことに、なんとアルシーがコンピューターで遊んでいる。顔色はかなりよさそうだが、ウェイウェイは少し心配になって尋ねる。 「もう大丈夫なの?」

ゴキブリの回復力もこれほど高くないのでは?

「ホームページを見るくらい何ともないわ」 アルシーが興奮して言う。 「ウェイウェイ、校内のフォーラムがあんたとシャオ・ナイに関する書き込みで炎上してる!それに昨日の体育館での手つなぎ写真まであるじゃん!」

ちょうど弁当を食べかけていたウェイウェイはむせてしまった。弁当箱を持って近寄って見る。確かにモニター上には体育館で彼女の手を握る大神の写真がある。おそらく遠くから撮られたらしく、2人とも写りは小さいが、紛れもなくベイ・ウェイウェイとシャオ・ナイだと見て取れる。

ウェイウェイは食欲を失くしたので、弁当を横に置き、アルシーのパソコンを持って来て自ら見る。

アルシーが言う。 「見る必要ないってば。大して中身もないから。最初は信じない人ばかりだったけど、写真がアップされたらみんな驚いちゃってさ。いつから付き合い始めたんだろうって噂し始めたんだから。フフ。そうそう、前に話したあんた達が最も似合わないって書き込みもどっかに行っちゃった」

ウェイウェイはいくつかの書き込みを読んだが、確かに彼女の話と大差ない。パソコンを彼女に返して食事を続ける。 「まったく うちの学生もゴシップ好きね」

「ああ、試験があるからよ。試験が近づくほどみんなゴシップに飛びつくの。それがストレス解消ってものよ!」

なるほどその通りではある。がしかし、自分がストレス解消の話題に利用されるとは……

ウェイウェイはスペアリブをひと口バクッとかじって悶々とした気持ちを表すしかなかった!

ほぼ食べ終わった時、寮の電話が鳴り出す。シャオリンが取りに行き、それからウェイウェイに向かって叫ぶ。 「ウェイウェイ、お身内から電話!」

ウェイウェイは囧囧 呆れ返りながら応対しに行き‘もしもし’と言って出ると、電話の向こうから声がした。

「起きた?」

電話越しの声はとても低く、実際に話す時とは違うような気がする。ウェイウェイは突然、これが大神と初めての電話を通じての会話であることに気づいた。

「ええ、起きました」

「まだ午後に自習しに行こうと思ってる?」

「自習はしたいけど、今行ってももう席は取れないと思う」

これは質問返しだ。電話の向こうでシャオ・ナイは一瞬考えてから言う。 「静かな場所がある。君を連れて行ってあげよう」

***

 


ウェイウェイが住んでいる寮はA大が数年前に新築したものだ。民国建築を模した赤レンガ造りのビルはどっしりした構えが荘厳で、幾重にも連なる緑の木々の中で引き立っている。環境は非常に美しくて心地いい。寮の前にある花壇の周囲には常に女子学生に求愛しようとする輩が - ある者は花を手に、ある者はプレゼントを抱え - 群れを成して立っている。それはごく普通の見慣れた光景だ。しかし一転して今日はそこにその人が立っていると、何もかもが奇異で場違いに見える。

ウェイウェイは建物から足を踏み出した瞬間、シャオ・ナイが目に入った。みんなの注目を浴びる中、彼は一貫して落ち着き払って、静かに花壇の脇に立っている。傍らには自転車が停められている。

多くの人に横目で見られながらウェイウェイはシャオ・ナイのもとへ歩いていった。少し早足で階段を下りてきたため、ちょっぴり息が切れ、頬は赤く染まり、瞳は潤んでいる。

「どこへ行くの?」

「連れて行ってあげよう」 シャオ・ナイは彼女が手に提げたカバンを取り上げ、自転車に掛ける。

ウェイウェイがシャオ・ナイの自転車に乗るのは2回目だ。最初の時に比べたらはるかに自然な気分でいられた。実際、今 彼女に選択肢があるなら、むしろ自転車に乗った方がいい。常に大神を感じながら肩を並べて歩くには、更なる勇気が要りそうだから。自転車での道すがら、注がれる周囲からの視線に関しては……

すでに写真もネットにアップされているのに、心配して何になるの。すべて無視無視。

あまり意識していなかったので、ウェイウェイは自転車に乗った後、行き先が違うことも知らなかった。自転車が西門を出てはじめて、彼女は気づく。 「あら!自習に行くんじゃ?」

「外にあるんだ」

A大の西門を出て、さらに角を曲がると、そこは中国の有名なITテクノパークだ。10数分後、シャオ・ナイは大きなビルの前で自転車を停め、ウェイウェイを連れて6階に上がった。

ウェイウェイがエレベーターから降りると、「致一テクノ」と記された金色の文字が目に入った。一瞬驚いた後、胸の中に突然1つの考えがかすめる。まさかここは……

「あなたの会社?」

「ああ」 シャオ・ナイが施錠されたドアを開けた。「入って。今日は日曜だから、誰もここにいない」

ウェイウェイは聖地巡礼する気分で慎重に彼の領土に足を踏み入れる。歩きながら頭を左右に小さく動かして、きょろきょろ見回す。

シャオ・ナイのオフィス面積はそれほど大きくない。おそらくワンフロアくらいだが、ソフトウェア会社は普通それほど大きい場所を必要とせず、ありすぎても無駄遣いなだけ。今オフィスには誰もいないが、それでもウェイウェイには溢れ返る活気が感じられる。それはオフィスの構造と関係しているのかもしれない。あるいは通りすがりに目にしたデスクの上に思い思いに置かれてる個性的なオブジェとも関係があろう。

シャオ・ナイは彼女を連れて中に入り、1つのドアを開けた。それは「シャオ・ナイ」と書かれたプレートが付いている部屋のドアだ。

大神のオフィスなの?

ウェイウェイは好奇心を持って、より一層慎重に足を踏み入れる。目の前のこの目新しい空間を観察することに頭がいっぱいで、すでに自分が誰もいない場所に誘拐されたことにまったく気づいていなかった>_<

シャオ・ナイは平然としてエアコンをつけ、手に提げていたウェイウェイのカバンをソファの上に置く。

「ここで自習できるかい?」

ウェイウェイはうなずき、ソファに座る。シャオ・ナイはもはや一顧だにせずコンピューターを立ち上げ、自分の仕事を始める。

エアコンから音もなく冷たい風が吹きつけ、外気の熱を払いのける。こんな快適で清潔な環境の中、ウェイウェイは本を手にするが、まったく目に入ってこない。

大神が言っていた通り、ここはとても静かだ。しかしその静寂がかえって落ち着かなくさせるのだ。特にここには2人きりだと、ついにウェイウェイが気づいてしまい……

ページをめくる音が聞こえないので、シャオ・ナイは頭を上げ、彼女を一瞥した。彼女が明らかにうわの空な様子を見て口を開く。 「ウェイウェイ、ちょっと見に来てくれないか」

えっ?

ウェイウェイは本を置き、小走りで彼のそばへコンピューターをのぞきに行く。大神のモニター上には精妙な容貌で、華やかな衣装を身にまとった古代の男女のイメージがいくつかあった。

「これは何ですか?」

「【夢游江湖2】のキャラクターのデザイン画」