2016年2月16日(火)

ビルボードライブ東京で、ホセ・ジェイムズ(2ndステージ)。

ビルボードライブの冊子の巻頭に載っていたホセの紹介記事に「ジャズに軸足を置きながら、R&B、HIP-HOP、ロック、フォーク、そしてエレクトロまでも取り込み、常に新たなステージを目指しているのが彼の最大の魅力。」とあって、その端的な一文が今回は特に核心をついたものに思えてくるのだった。

そう、ホセ・ジェイムズは「常に新しいステージを目指している」。彼はけっこう頻繁に来日してビルボードライブで公演を行なっているが、そのモード・構成・編成は毎回異なっている。ジャズの色合いの濃い公演を行なうときもあれば、ソウルの色合いの濃い公演を行なうときもある。因みに前回はビシッとダーク・スーツでキメて、ビリー・ホリデイのカヴァー集の曲を中心に全編ジャジーな落ち着いたトーンで迫っていた。

ビリー・ホリディのカヴァー・プロジェクトがジャズ方面における彼のルーツ表現のひとつだったとするなら、(橙系のライダースに模様入りパンツという)衣装も髪型も180度逆方向に振り切っての今回は、ざっくり言うならヒップホップ方面のオレ表現。前回がジェントリーなら今回はファンキー。スタンドアップマイクにはわざわざ星条旗を巻き付けてたりして、そのへん含め、いかにも攻めてる感じを表わした2016年モードのホセだった。

メンバーがステージに登場する前に、まずはサム・クックの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」(前回公演の確か最後に歌われもした)が流れ、映像が映し出された。いろんな人たちが自分の信じる言葉を書いたボードを見せ、それを繋げていく映像。PEACE・POWER・CHANGEとも映ったが、新作のテーマはそこに重なるものとなるのだろうか。果たして星条旗もそのへんに絡めてのものなのか。

そして開演。今回のメンバーは、ホセ、大林武司(Kye)、ネイト・スミス(Dr)、ソロモン・ドーシー(bass)。
「今のメンバーが最高で、まるでドリームチームだ」とは前パブかなんかで目にしたホセの言葉だが、演奏が始まってその意味がわかった。まず、ネイト・スミスの変則リズムが怪物的。お馴染みのソロモン・ドーシーくんはベース以外にコーラスつけたりリード部分を歌ったりギター弾いたりとこれまでの何倍も大活躍。そのファンキー傾向に呑まれることなく流麗に、かつ控えめながらも主張するところはしっかりしながら味を出すのが大林武司。3者3様。その合わさりが面白い。

で、総体としての感想を先に書くなら、今回の公演、間違いなく過去最強。それはもう、ちょっと衝撃受けたほど。ホセさん、もしかしていままで本気出してなかったの? とか思えたくらい。

ショーってのは大体、後半からだんだんと熱を帯びてく作りにするものじゃないですか。ところが今回のものはそうじゃなく。序盤の曲からホセさん、延々と続く生声スクラッチ。いままでもアレ、見せ場で度々やってはいましたよ。記憶に間違いなければ確か前回のビリー・ホリディ・カヴァー公演のときですらも終盤にちょろっとやってみせていた。けど、今回のその長さはこれまでの比じゃなくて。終わりがないんじゃないかってなくらい、ネイトの妙ちきりんなリズムに絡めて延々としつこくアレをやりながら、手ではレコードをスピンする(真似をする)。で、そこからさらに今度は熱を込めたラップへと展開。それ、いままでのようなクールなお洒落ラップではなく、オレだって本気出したらこんなだぜってな念を感じるほどの熱いもので。もしかしてホセさん、昼間、ホテルでグラミーの生中継見てケンドリック・ラマーのパフォーマンスに刺激されたんじゃないか… とか思っちゃうくらいの熱量でね。いや、凄かった。

言うなれば、それ、ジャズ+ヒップホップの新次元。で、僕はこう思ったな。絶対ホセ、ケンドリック・ラマーの新作を聴いての刺激・影響がいまの新モードに繋がってて、恐らく次作にもそれが繋がってるんだろうと。今のアメリカについていろいろ考えてて、それについての言いたいことはだいぶヒップホップ側に振らなきゃ表現しきれないんだろなと。言わば自分内揺り戻し。

まあそんな感じで、この日は序盤から熱量がとてつもなく。そして中盤以降ではその新作(秋頃出るっぽい。タイトルは『LOVE IN A TIME OF MADNESS』だそうな)からの新曲を続けて3曲披露したりも。そのうち「I'm Yours」という曲は、それこそ「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」っぽいメロも微妙に入ったあたたかなラブバラッドで、途中、ドーシーくんがいい感じで歌ったり。それから1曲おいてあと1曲はディスコ~ファンク系の感じでありました。

そしてさらに、デヴィッド・ボウイの「世界を売った男」をロックな鳴らし方でやり(これはまあ想定内の出来ではあったかな)、ラストは「トラブル」!。お馴染み曲ながらもメンバー変われば出音も変わるもので、これ、過去最強の厚みある響きだった。それに何より、ホセの歌声ね。その出力は以前に比べてずっと大きく、ああ、歌手として堂々と、ずいぶん感情入れ込んで歌うようになったんだなーと。そこにチェンジと経験を積み重ねがらもとにかく近道などしないでここまで続けてきた、そのことの自信なんかも見て取れて、それも含めてめちゃめちゃ進化の感じ取れる公演だったわけです。

いやー、興奮したなー、本当に。昼間のグラミーのラマーのパフォーマンスも凄かったけど、負けじと夜のホセの公演も凄かった。帰ってしばらく寝付けなかったもんね。新作が待ち遠しい限り。


やる度に保守的だなんだといろいろ言われ、それに同意するところもありつつも、しかしそれでも音楽好きのひとりとしてグラミー賞ほどワクワクするアウォードはほかにないわけで。僕などは毎年事前にブログで受賞予想して、当日は仕事ほっぽってテレビの前にデンとかまえて生中継見て、すぐにブログに感想書いて、夜は字幕入りの放送を見直して……ということを続けてきたわけだけど。あぁ、しかし今年ほど“ダメだ、こりゃ”感を強く抱いてしまったグラミーはなかったな。

まず受賞結果だけど、途中まではまあまあ悪くなかったのだ。
今回の最大の見どころは、最多ノミネートのケンドリック・ラマーがいくつ獲るか。そもそも11部門にノミネートされただけでも83年のマイケルに次ぐ歴史的快挙だったわけだが、最優秀ラップ・ソング、最優秀ラップ・アルバムなど、その分野においての賞をラマーは果たして順当にものにしていった。しかも最優秀ラップ・アルバムのときにはアイス・キューブと息子のオシェイ・ジャクソン・Jr.がプレゼンターで登壇。彼らが同じコンプトン出身のラマー作品を読み上げたときには、つい先日も極上音響で観直した『ストレイト・アウタ・コンプトン』の興奮が未だ冷めてなかったこともあって胸が熱くなった。

がしかし、「アフリカンアメリカンの」「コンプトン出身の」「ヒップホップの若い」アーティストの切迫した叫びがより広いところに伝わるためには、そうしたジャンル内の賞だけでなく、主要の「最優秀アルバム賞」を獲る必要があった。それを獲れば歴史は動く。だからなんとしても獲ってほしかったのだが……。「最優秀アルバム」に輝いたのは、なんとテイラー・スウィフトの『1989』。白けた。なんのこっちゃ、まったく意味がわからない。一番売れたから?   だったら毎年売れた順に賞を渡せばいいだけだろう。これに賞を与えることに一体何の意味が、価値が、効果があるというのだろう? 本当にまったく理解できない。それに「最優秀アルバム」には、ほかにアラバマ・シェイクスもザ・ウィークエンドもノミネートされていたのだ。ケンドリック・ラマーじゃないなら、アラバマ・シェイクスかウィークエンドに行くべきだろう。それがテイラー・スウィフトって……。どう考えてもありえないでしょ。

その「最優秀アルバム賞」ほどではないにせよ、「最優秀新人賞」がメーガン・トレイナーだったのもよくわからないことだった。だって今年の最優秀新人にはコートニー・バーネットもジェイムス・ベイもノミネートされていたのだ。なのになぜメーガン・トレイナー?

今年は全83部門中、26部門を予想してみたのだが、そんなわけで主要4部門の予想は外れまくり、(主要4部門の中で)当たったのはわずかに「最優秀レコード」の「アップタウン・ファンク」(マーク・ロンソンfeat.ブルーノ・マーズ)だけ。的中は全部で11部門。26分の11ということで、またしても半分にも届かなかった。去年はどうだったっけ?  と思ってブログを振り返ってみたら、去年は20部門予想して11部門的中。分母の分だけ今年は的中率がグッと下がったことになる。くうっ。

アラバマ・シェイクスが6部門のノミネート中「最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバム」など3部門を受賞したのは希望の持てたところだった。「最優秀トラディショナル・ポップ・ヴォーカル・アルバム」をトニー・ベネット&ビル・チャーラップの傑作『The Silver Lining:The Songs Of Jerome Kern』が、「最優秀トラディショナル・R&B・パフォーマンス」をレイラ・ハサウェイの『Little Ghetto Boy』が獲ったのも喜ばしいことだったし、こういうところはグラミーの信頼できるところだ。しかし、去年のパフォーマンスの素晴らしさもあって多数獲るんじゃないかと思っていたコモン&ジョン・レジェンドの「Glory」が意外にも引っかからず、また僕が個人的に激押ししてたコートニー・バーネット、リオン・ブリッジズ、エル・キングにスポットが当たることがなかったのは残念だった。

一方、パフォーマンスはどうだったかというと、圧倒的だったひとつを除いて、こちらも例年に比べるといまひとつパッとしなかったという印象。

まず、リアーナが気管支炎でキャンセルしたことが痛かった。問題作『ANTI』を放ったばかりのリアーナが今回はどれだけ強烈でダークなパフォーマンスを見せてくれるのか、何より僕はそれを楽しみにしていたので、本当にガックリきてしまった。グラミーのリアーナの不在。それはあまりにも大きい。

最近になって亡くなったアーティストの数が多すぎ、追悼パフォーマンスの数を絞り切れずに、ひとつひとつの質を高められなかったようだったのも残念だったところだ。スティーヴィー・ワンダーとペンタトニックスによるモーリス・ホワイトの追悼パフォーマンスはやけにあっさりしたものだったし(ペンタトニックスの出番はここである必要はなかった)、デヴィッド・ボウイを追悼したレディー・ガガは田中真紀子の真似して歌ってる物まね番組の芸人のようだった(気合いは見て取れたが、いかんせんかっこわるい。曲も詰め込みすぎ。出だしのプロジェクションマッピングだけはよかったけど)。そしてグレン・フライ追悼でジャクソン・ブラウンを加えて演奏したイーグルスは「よかった」というより「悲しかった」。そんななか、ボニー・レイット、クリス・ステイプルトン、ゲイリー・クラークJr.によるB.B.キング追悼と、ハリウッド・ヴァンパイアーズによるレミー追悼はなかなかよかった。あの感じはグラミーならではだろう。しかしナタリー・コールとアラン・トゥーサンの追悼パフォーマンスはなく、トリビュートのコーナーの映像でほんの数秒触れただけだったのは、(特にコールのグラミー貢献度からすると)腑に落ちなかったところでもある。

ほかに単独でパフォーマンスしたなかでは、まずウィークエンドが持ち味を発揮しててよかった。アラバマ・シェイクスもいつも通りでありながらも異彩を放って圧倒的な存在感を見せつけていた。ジャスティン・ビーバーはしなやかで、あんなにも軽く歌っているのに華も跳躍力もあってやはり天才であることが改めて伝わってきた。そしてアンドラ・レイの歌唱の説得力はアデルのそれを上回っていた。上には上がいるということだ。アデルは、僕はあまり好きになれなかった新作のなかで一番好きだった「ALL I ASK」を歌ったのだが、途中でトラブルがあったからか、その歌唱はいまひとつ冴えがなく、なんだか普通。先に「圧倒的だったひとつ」と書いたそれのあとだったこともあり、いつもより霞んで見えたというのもある。

さて、その「圧倒的だったひとつ」だが、それはもちろんケンドリック・ラマー。圧巻だった。今年のハイライトだったことは疑う余地もなく、もっと言うならこの10年くらいのグラミーの全てのパフォーマンスのなかでも上位にくるであろうものだった。

ラマーのグラミーのパフォーマンスと言えば、2年前のイマジン・ドラコンズとの「レディオ・アクティブ」も鳥肌ものだったが、今回の「ザ・ブラッカー・ザ・ベリー」~「オールライト」の衝撃と熱量はそれをも上回っていた。手錠と鎖に繋がれ、囚人服を着たラマーは、左目に殴られたような青痣をつけてもいた。そして怒りの爆発を実際の火を使って表し、そこから母なる大地といった表現も含めての「オールライト」へ。リアルとフェイク、善と悪が複雑に絡んだアルバムの、その難解だったメッセージも、こうして芝居仕立てになるとダイレクトに伝わり、やけくそのイッツゴナビオーライ!に胸がかきむしられる。とりわけ終盤のカメラの切り替えによるラマーの表情どアップは強烈なインパクト。グラミー史に残るパフォーマンスになった。それだけに、繰り返すが「最優秀アルバム」がテイラーの手に渡ったことがやっぱりどうしても解せないのだった。それもラマーが獲っていれば、真の意味で歴史的なグラミーになったのに。


2016年2月14日(日)

さいたまスーパーアリーナで、マドンナ。

立川で『ストレイト・オブ・コンプトン』の極上音響を体感したあと、さいたまスーパーアリーナへ(下北沢~立川~さいたま新都心。なかなかの移動距離でした)。

13日の公演はDJ MARY MACのDJが終わってから1時間ほど間があり、結局ショーが始まったのは21時過ぎだったと聞いた。因みに前回・2006年9月の来日公演も、始まるまで約50分待たされた。マドンナだから仕方ない。そう覚悟してのんびり構えていたら、この日はDJ MARY MACのDJが終わってちょっとしたら「間もなく開演です」とのアナウンス。20時を少し回ったくらいの頃合いで客電が落ち、あっさり始まった。ってことは、マドンナ、今夜は非常にいい状態にあるってこと?  どうやら、その読みは大当たりだったようだ。

10年ぶりとなるマドンナの日本公演は、期待を遥かに上回る素晴らしさだった。僕個人の印象としては、10年前の公演の10倍よかったと、大袈裟じゃなくそう言えるものだった。

近年はアリーナ~ドームクラスの大会場のライブのあり方として、メインステージひとつで全てを完結させるものよりも花道やセカンドステージなどを使いながら立体的に構成するものが断然増えている。初めにセカンドステージという概念を大会場に持ち込んだのは誰だったか。ちゃんと調べてみないとわからないが、ストーンズがブリッジズ・トゥ・バビロン・ツアーでメインステージからビヨ~ンと伸びる橋を出し、そこをメンバーが渡ってセカンドステージで演奏するというのをやったのは1997年のこと。もう19年も前だが、もしかしたらあれが最初だったんじゃないか。そうやって、メインステージだけで全てを「見せる」のではなく、アーティスト自らが観客席のほうに分け入って、観客と混ざる感覚でパフォーマンスする。構えて「見せる」というより、一体となって「楽しませる」あり方のほうが、いまはむしろ基本だろう。同じさいたまスーパーアリーナで1週間前に観たSuperflyのライブもまさにそういうものだった。

マドンナの10年前の公演は、演出・映像全てにおいて凝りまくっていたが、メインステージ上でその全てを構築して見せていた。かっこいい姿を「さあ、見なさい」と一方的に見せるのがマドンナらしさのような気がしていたものだが、しかし今回はそのマドンナも花道やセカンドステージ、さらにサードステージも使って、ファンたちと「混ざる」感覚を強く打ち出していた。実際、メインステージにいる時間と同じくらいか、あるいはそれよりも多く花道やセカンドステージやサードステージで歌っていたんじゃないか。

つまり、あのマドンナが「あなたたちと一緒にいる私」を強く打ち出していたわけで、それはけっこう画期的なことだった。

そして、今回マドンナは、これまで以上に自身の肉体を使ったパフォーマンスをたくさん見せていた。10年前の来日公演との最大の違いはそこだろう。

10年前のドーム公演に、僕は気持ちがノリきれなかった。当時のブログを読み返してみると、僕はこう書いている。

「マドンナのライブは初来日から観ているが、今までは必ず何らかの驚きがあったものだ。フーズ・ザット・ガール・ツアーではステージにベッドが現れ、その上での自慰パフォーマンスにうわっと思ったり。プロンド・アンビション・ツアーでは初めてスタジアムという場にハウスを持ち込んだことに画期的じゃんと驚いたり。ガーリー・ショウのツアーではアンコールで客電がついてもステージを端から端まで疾走して、そのパワーにやられたり。新木場スタジオコーストのシークレット・ライブでは30~40分という時間が恐ろしく濃密に思えるほど終始踊りながら煽ってて、その圧倒的な気迫にやられたり。だが今回は初めて、そのような驚きも意外性も感じられず、何かほとんどのことが想定内といった印象。なんかどっかで観たな感が終始つきまとってしまっていたのだ」

「忍者のように跳ね回るダンサーたちのパフォーマンス。それ自体は凄いが、主役のマドンナに絡むのではなく、歌っているところから少し離れたところで跳ね回るので、観るこちら側の集中力が分散してしまう。まあ、これはあえてそうしているのだろう、きっと。これ、けっこう大きなポイントだと思うのだが、今回、僕は今までのマドンナのライブと比較すると、彼女はそんなにパワフルに踊ったり動いたりしているようには見えなかった。いや、動いているように見せてはいるが、よく見ると省エネというか。ちょっとした動きをいかに大きく見せられるか、それが考え抜かれているのだ」

だが今回はそうじゃなかった。ダンサーたちもさることながら、マドンナ自身が終始動いていた。自身がクルクルと回転したり、いろんな場面で高いところに登って何かしたり。ダンサーたちのアクロバティックな動きもサーカス並に凄いのだが、マドンナもまた自らの肉体をもって伝えるべきことを表現していたのだ。

そのダンスはいまもってキレッキレ……というわけではない。歌にしたってところどころピッチがずれたりもする。後半、彼女は息を切らしてもいた。だが、57歳の女性が、普通だったら歌なんか歌えないだろうというような動きをしながらも、とにかく歌うのだ。それが凄い。ミック・ジャガーという怪物があの歳でも息を切らさずあれだけしやなかに動いて歌う。その驚異に対しての感動というのもある。が、マドンナという57歳の女性が、息を切らしていることも生々しく伝えながら、何一つ誤魔化すことなく己の肉体と声を使って表現する。その感動というのも確かにあって、今回はまさにそこに胸揺さぶられてしまったのだ。

もうあと何回もツアーなんてできないだろう。そのことは自身が誰よりわかっているだろうが、ならば自分が動けるだけ動いて踊れるだけ踊って歌えるだけ歌ってやろう。回りのダンサーたちを動かすよりもまず自分の肉体を限度ギリギリまで動かそう。そのような覚悟がビンビン伝わってきて、本当に僕はグッときてしまった。グラミー賞でのカラダの重そうな様子だったり、あるいはどっかのライブでベールがぬげなくて引っ張られたりコケたりと、ここ数年はちょっと見ていて辛くなる感じがなきにしもあらずだったものだが、今回のツアーのマドンナはさすがにカラダも絞られ、痛々しさなど皆無。それどころか、喋り方や笑い方がチャーミングに感じられたところもけっこうあった。57歳でね、しかもああいう攻めの芸風で。あんなふうにチャーミングに笑える女性はなかなかいないじゃないでしょうかね。

また今回も1曲1曲に、歌詞に込めたメッセージ以上の意味性を持たせていろんなことを考えさせられる演出を施していたわけだが、10年前の日本公演はそうしたメッセージ性が強調されすぎてやや鬱陶しく感じられたのに対し、今回は先述した肉体性とのバランスで思いのほかすっきりしたものに感じられた…というのも大きい。つまり理屈なしに(譬え1曲1曲に込めた意味性を理解できずとも)楽しめる、そういうバランスに仕上がっていたということで、そこがよかった(もちろんその意味性が理解できたら、さらに楽しめるものだったということだ)。

名場面はいくつもあったが、個人的にもっとも興奮したのは、(確か3曲目だったかに)フライングVを弾きたおして歌った「バーニング・アップ」。言わずと知れた最初期の1曲だが、ここではハードなロックンロール調にアレンジされ、それが実にかっこよかった。因みに今回のライブの始まりに大音量でかかったのはマイケル・ジャクソンの「ワナビー・スターティング・サムシング」で、そこからは80年代初頭に共闘したライバルへのオマージュが受け取れたわけだが、サードステージまで行って「バーニング・アップ」でギターをギュインと弾きながら客を挑発するその様子は、僕にはプリンスへのオマージュのように感じられもした。

ギターを弾いて歌うマドンナというのは絵になるもので、その「バーニング・アップ」にかなり興奮したが、もう1曲、後半でアコギを弾きながら歌われた「レベル・ハート」もまた感動的だった。

それからなんといっても(13日はやらなかったらしい)「テイク・ア・バウ」。ライブで初めて聴いたこの曲、まさか歌われるとは思わなかったので、ふいをつかれて思わず落涙。あれは沁みた。

それにしても(後半は別にしても)ショー全体のトーンはとことんダーク。リアーナ以降のあり方に通底するとも言えるダークポップのトーンだが、演出家のジェイミー・キングと組んでこれを始めたのもそもそもマドンナだったわけで、本家ならではの凄味もまた感じられた。セックス、バイオレンス、インモラルなラブ、そしてその先にあるセレブレイト。それはあのトーンじゃなきゃリアルに表現しきれないものなのだ。

僕らは2万円のS席を買って観たのだが、あれなら5万の席でも後悔しなかっただろう。マドンナと同時代に生きられてよかったと、そこまで改めて思った忘れ難きバレインタインデイになった。

第58回グラミー賞受賞作品(またはアーティスト)の予想をさくっとしてみます。

あんまり深く考えないで、直感でちゃちゃっといってみますね。


●RECORD OF THE YEAR

予想「Uptown Funk」Mark Ronson Featuring Bruno Mars
希望「Uptown Funk」Mark Ronson Featuring Bruno Mars

●ALBUM OF THE YEAR

予想「To Pimp A Butterfly」Kendrick Lamar
希望「To Pimp A Butterfly」Kendrick Lamar

(Alabama Shakesに獲ってほしい気もするし、もしかしたらそっちかも、ってな気もちょっとしてる。そうなったらLamar以上に快挙だよなー。)

●SONG OF THE YEAR

予想「Alright」Kendrick Duckworth, Kawan Prather, Mark Anthony Spears & Pharrell Williams, songwriters 
希望「Alright」Kendrick Duckworth, Kawan Prather, Mark Anthony Spears & Pharrell Williams, songwriters 

(グラミーは保守的だからそれはないだろうという読みもあるだろうが、今回あえてこれはいくんじゃないか)

●BEST NEW ARTIST

予想 Courtney Barnett
希望 Courtney Barnett

(本命はJames Bayだろう。けど、自分的な思い入れの強さではなんといってもCourtney Barnettなので、おもいきって。獲ってほしい!)




●BEST POP SOLO PERFORMANCE

予想「Blank Space」Taylor Swift
希望「Can't Feel My Face」The Weeknd


●BEST POP DUO/GROUP PERFORMANCE

予想「Uptown Funk」Mark Ronson Featuring Bruno Mars
希望「Ship To Wreck」Florence & The Machine


●BEST TRADITIONAL POP VOCAL ALBUM

予想「The Silver Lining: The Songs Of Jerome Kern」Tony Bennett & Bill Charlap
希望「The Silver Lining: The Songs Of Jerome Kern」Tony Bennett & Bill Charlap


●BEST POP VOCAL ALBUM

予想「Uptown Special」Mark Ronson
希望「How Big, How Blue, How Beautiful」Florence & The Machine


●BEST DANCE RECORDING

予想「We're All We Need」Above & Beyond Featuring Zoë Johnston
希望「We're All We Need」Above & Beyond Featuring Zoë Johnston


●BEST DANCE/ELECTRONIC ALBUM

予想「Skrillex And Diplo Present Jack Ü」Skrillex And Diplo
希望「In Colour」Jamie XX


●BEST ROCK PERFORMANCE

予想「Don't Wanna Fight」Alabama Shakes
希望「Ex's & Oh's」Elle King


●BEST ROCK SONG

予想「Don't Wanna Fight」Alabama Shakes
希望「What Kind Of Man」Florence & The Machine


●BEST ROCK ALBUM

予想「Chaos And The Calm」James Bay
希望「Kintsugi」Death Cab For Cutie


●BEST ALTERNATIVE MUSIC ALBUM

予想「Currents」Tame Impala
希望「Currents」Tame Impala


●BEST R&B PERFORMANCE

予想「Earned It (Fifty Shades Of Grey)」The Weeknd
希望「Breathing Underwater」Hiatus Kaiyote


●BEST TRADITIONAL R&B PERFORMANCE

予想「Little Ghetto Boy」Lalah Hathaway
希望「Little Ghetto Boy」Lalah Hathaway


●BEST R&B SONG

予想「Coffee」Brook Davis & Miguel Pimentel, songwriters (Miguel)
希望「Coffee」Brook Davis & Miguel Pimentel, songwriters (Miguel)


●BEST URBAN CONTEMPORARY ALBUM

予想「Beauty Behind The Madness」The Weeknd
希望「Blood」Lianne La Havas


●BEST R&B ALBUM

予想「Coming Home」Leon Bridges
希望「Coming Home」Leon Bridges


●BEST RAP PERFORMANCE

予想「Alright」Kendrick Lamar
希望「Alright」Kendrick Lamar


●BEST RAP/SUNG COLLABORATION

予想「Glory」Common & John Legend
希望「Glory」Common & John Legend


●BEST RAP SONG

予想「Glory」Lonnie Lynn, Che Smith & John Stephens, songwriters (Common & John Legend)
希望「Glory」Lonnie Lynn, Che Smith & John Stephens, songwriters (Common & John Legend)


●BEST RAP ALBUM

予想「To Pimp A Butterfly」Kendrick Lamar
希望「To Pimp A Butterfly」Kendrick Lamar


●PRODUCER OF THE YEAR, NON-CLASSICAL

予想 Larry Klein
希望 Larry Klein


●BEST MUSIC VIDEO

予想「Alright」Kendrick Lamar
希望「Alright」Kendrick Lamar


●BEST MUSIC FILM

予想「What Happened, Miss Simone?」(Nina Simone)
希望「Amy」(Amy Winehouse)


ってな感じで、全83部門中、26部門を予想してみた。
たくさんノミネートされててもフタを開けたら全然獲れず…みたいなカニエ的な例もよくあるけど、今年最多ノミネートのKendrick Lamarはノミネートされた部門のほぼ全部に近い数を獲るんじゃないかと思う。

あと注目したいのはAlabama Shakesがいくつ獲れるか。

で、D'Angelo And The Vanguardは意外と何も獲れなかったりするんじゃないかと。

個人的には、Courtney Barnett、Leon Bridges、Elle Kingあたりが何か獲ってくれたら嬉しいなー。テレビの前で「やったぁー」と叫ぶ準備はできてますんで、ひとつ。
あと、たぶん何もひっかからないで終わる気がするけど、Florence & The Machineが何か獲ったら飛び上がって喜びますよ、僕は。

楽しみー。


2016年2月8日(月)

代官山「晴れたら空に豆まいて」で、倉品翔 with 林田順平.JP。
(イベントタイトルは『透きとおる夜に』)

GOOD BYE APRILの倉品翔くんとチェリストの林田順平さんの共演を代官山の晴れ豆で観た。

倉品くんのメロディとチェロの音色の相性のよさは前に青山の月見ルで行なわれたAPRILのスペシャルライブを観てわかっていたし、いち早く聴かせてもらったAPRILの初アルバムからもそれは感じ取れたことだった。が、この夜のライブで改めてそのことを確信。

しかも林田さんは倉品くんの歌に「寄り添う」というより、曲の本質をガチで自分流に捉え直していた。そのアレンジの創造性と音色の美しさよ。ここに欲しいというドンピシャのタイミングでチェロが入ったりもするし、そうくるかというところで入ったりもして、一瞬たりとも音を聴き逃したくない気持ちにさせてくれて。「Hello Again」のチェロなどは旋律を弾くのではなくリズム楽器(ともまた違うけど)のようにも機能してたっけなぁ。

そこにヌルい仲良し感などはなく。個と個の呼吸が合わさって音楽になっている、その感じがとてもよかった。

あと、林田さんの妙にSっ気のあるつっこみと、彼に気ぃ使いながら進めていく倉品くんのやりとりも面白かったなw

このデュオはいい。これからもときどきライブをやってほしい。


2016年2月7日(日)

さいたまスーパーアリーナで、Superfly。

アリーナツアー3日目。幕張の初日よりも運びの流れがグッとスムーズになっていた。まだ3公演めにしてあの完成度ってことは、ファイナルはどこまでいくんだろう…。もう一回くらい観ておきたいところだが、予定が合うかどうか。

ロックをかっこよく聴かせる(見せる)シンガーはほかにもいる。けど、それをかっこよくだけじゃなく、楽しくも聴かせて(見せて)、その上あたたかさも伝えられるシンガーは、Superflyだけじゃないか。と、強く思った。

また、1万5千人もの人を前にあんなに楽しそう&幸せそうにライブやれるシンガー、ほかにいないよなぁ、とも。


2016年2月6日(土)

長野県茅野市のライブバー「the Piano Man」で、加奈崎芳太郎。

加奈崎芳太郎さんのバースデイライブを長野県茅野まで観に行った。ライブタイトルは「加奈崎芳太郎HISTORY」。とくれば、観に行かないわけにはいかない。加奈崎さんの歌を聴けるのは、僕にとって去年最も深く心に残った古井戸の再会ライブ以来でもある故。

歌手としての長い歴史の膨大なレパートリーから約20曲(選ぶのはさぞかし大変だったことだろう)。古井戸以前の曲から『ピアノ-フォルテ』以降の未録音曲まで、ブツになってない曲もたくさん。古井戸「コーヒー・サイフォン」に始まり、ざっくりとキャリアを辿っていく構成で、その当時を振り返っての加奈崎さんの話もいちいち興味深かった。

曲世界の振れ幅は(長いキャリア故に)大きく、時代によって叙情と先鋭が行ったり来たり。個人的にはとりわけ「Knife」「Gomi」の鋭さに撃ちぬかれた(どちらも91年作『Kiss of Life』収録。それはもう今もって鋭利な刃物のよう)。

加奈崎さんの歴史。それはフォークだニューミュージックだといった時代時代の風呂敷にくるまれることから逃れて戦う歴史であり。同時に、自己を磨いて自己の道を進まんとする思いと時代の移り変わりとの間でもがく葛藤の歴史でもあったのかもしれない。と、この日歌われた曲を聴きながら僕は改めて思ったりもした。

と同時に、僕はまだ加奈崎さんのほんの一部分しか知ってないな、とも。

4月8日のライブ(大森の「風に吹かれて」で行なわれるトーク&ライブ。僭越ながら内本がトークのお相手を務めさせていただくことになりました)では、そのことを踏まえて、いろいろお話を伺いたいと思う。

ライブ終演後、打ち上げにも参加させていただいたのだが、そこには昔から(それこそ古井戸の時代から)加奈崎さんのライブを観続けている熱のある方々がたくさん。その方々の何人かとお話できたのもよかった。一方、去年のチャボの渋公ライブで初めて加奈崎さんの歌を聴いてファンになり、この日東京から観に来たという方もおられ、それも加奈崎さんのファンのひとりとしてなんだか嬉しいことだった。そのように、耳に入る機会さえあれば確実に響くのだ、加奈崎さんの歌は。それほどの力があるのだ、間違いなく。

ところで、この日の会場の「the Piano Man」。特に何があるというわけでもない(失礼!)茅野駅周辺をフラリ歩いてみてから入ったことも手伝い、そのモダンな内装に(もちろんいい意味で)少し驚いた。音響もいいし、けっこう人も入りそうだし、僕の好きなレコードのジャケもいろいろ飾ってあったりで、オーナーやマスターの拘りが感じられる、とてもいいハコ。ビルボードライブあたりに来るジャズやソウル系のアーティストだって、ここには似合いそうだ(3月には吉田美奈子と森俊之のデュオライブが予定されていた)。機会があってあっち方面に行くことがあればまた寄りたい。


2016年2月5日(金)

八王子市芸術文化会館いちょうホールで、Char。

ツアー序盤なので内容は書けないが、昔からのファンには本当にたまらないセトリ。どうにかなりそうでしたよ、僕は。

で、これはこの夜だけだろうから書いちゃうけど、アンコールではモーリス・ホワイト追悼の意を込めてアースの初期曲「Evil」もプレイ。「サンキュー・モーリス!」とも。

終演後、Charさんにお会いして聞いたら、高校時代に佐藤準さんとやってたバンドでアースをカヴァーしてたそうな。なので、この日会場に来てモーリスの死を知ってから楽屋でちゃちゃっと合わせ、ほぼぶっつけでの演奏だったらしい。

八王子まで行ってよかった。昔からのファンはマジでどっかで観といたほうがいいすよ、今回のツアー。


2016年2月4日(木)

新宿K's cinemaで、『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』。

遠藤ミチロウ初監督作。

「Just Like a Boy」じゃないが、“まるで少年のように”歩いたり笑ったりするミチロウがそこに。なんて純粋な魂。なんて輝きある純音楽。これまで何度もライブを観てきた僕にも、それはとても眩しかった。

ご自身の監督作だが、それは「バンドよりもひとりでやるほうが好き」だという音楽表現と同じ理由からなのだろうか。確かにあの執拗とも言える踏み込みと客観性の理想的なバランスは、自身の特性をわかっているからこそ。ほかの誰かが監督したらもっとドラマチックに過ぎてしまう作品になってたかもしれない。っていう匙加減とかもう、監督としてもさすがですよ、ミチロウさん。今度は他者を撮った作品も観てみたい。

それにしても、やっぱどうしたってあのTHE STALIN246のライブシーンにゃ興奮しちまうな。カメラの揺れもいいし、ミチロウの汗が画面からビチャっとかかりそうだ。

この映画を観て、僕はいままでよりもっともっともっとミチロウのことが好きになり…。なるよねぇ、なるでしょ。

そして自分の母親との関係性についても考えてみたり…。もう一回観に行くぞ。


2016年2月2日(火)

新宿ピカデリーで『デヴィッド・ボウイ・イズ』。

前回上映時は見逃したが、追悼上映となる今回、ようやく観に行けた。

日本には2017年の春にくる回顧展のドキュメンタリー映画で、その予習にはもってこいの映画。クールに言えばそれ以上でも以下でもない。

観終えての感想としては、「こういう切り取り方か」と。ファッションからアートまでの総合芸術表現者としての偉大さはなるほどよく伝わってくる……のだが、それだけにミュージシャンとしての革新性にはさほどスポットが当てられてなくて、自分がボウイを好きになった理由に重なる証言なり背景描写なりはそこにはなかった。なるほど、インテリゲンチャの方々はボウイのこういう面が好きなのね…ってのはよくわかって面白かったけど。あ、でも、山本寛斎のエモさにはグッときましたが。

あと、字幕で大切な固有名詞…例えばルー・リードとかアラジンセインとか…を表記してないことに違和感。

まぁ、いろいろ勉強になったので観ておいてよかったし、とりあえず来春の回顧展は楽しみです。