2017年11月10日(金)
新木場スタジオコーストで、アウスゲイル。
2014年のデビュー翌月(2月)に同会場で行なわれたホステスクラブウィークエンダー、同年のフジロック、2016年のホステスクラブオールナイター、今年のフジロック(このときは中盤の数曲だけしか観てないが)と、彼の来日ライブはわりと追って観ているが、回を追うごとによくなっていってることは間違いない。以前は終始うつむいたままで、観客を見ることもほとんどなかった彼だが、この日は最後のほうで顔をあげてニコッとしたりもしたし、確かに「サンキュー」と言う回数も増えていた。相変わらずマイクスタンドの前から動かないし、あまりにも普段着だし、「サンキュー」以外特に喋りもしないけど、あれでも以前に比べればずいぶん心を開くようになったのだ。そういう意味での成長は確かに見て取れた。バンドのメンバーたちとひとつになって生み出される歪み混じりのあの音もますます揺れやブレのないものになっていて、表現のあり方に自信を持っていることも伝わってきた。
でもなぁ。今回は今までにも増して、あまりにも淡々としているように感じてしまったのだな、僕は。何かもう少し動きを持たせる工夫ができないものか。例えば中盤で1~2曲だけでも弾き語りをしてみたりしたら、それでずいぶんメリハリが出て変わると思うんだがな。アルバムを聴きこんでいる人にはいいけど、例えば彼氏や彼女に連れてこられたというような方は、あれだと途中で飽きてしまうんじゃないだろか。
シンプルなライティングは、それはそれで曲そのものに集中できるからむしろ効果的と言うこともできるけど、でも映像と音との同期によって楽しませるライブが昨今の主流となって、最近スタジオコーストで観たどのライブもそういうものだったこともあり、例えば今ここで背景に森林とか湖とか川とか空とかの映像が映されたりしたらもっとイメージが膨らむのに……と何度も思ってしまった。背景に何か広がりが欲しいと、観ていて何度も感じてしまったのだ。
そういう意味で、フジロックで観たアウスゲイルはとてもよかった。わけても2014年のフジのホワイトステージでは、アウスゲイルのライブ前に雨があがって、途中、左の山のあたりから陽が射し、その景色の状態とアウスゲイルの音楽が完璧にマッチしていた。実に美しかった。あれこそまさにフジロック・マジック。自分がこれまでに観たアウスゲイルのベストライブは、だから断然2014年のフジロックのホワイトステージであって、未だどうしてもあれを上回らないのだ。
今回もアンコールのラストは「TORRENT」で、それはほかのどの曲よりも昂揚感があり、近くにいた何人かは思わずリズムに合わせて手を鳴らしていたりもしてたが(まさしく「幸せなら手を叩こう」というような…)、しかし厳しく見れば彼はこの曲に頼りすぎではないかという気もしたり。
新作『アフターグロウ』は、デビュー作からの飛躍的な進化が感じられた素晴らしいものだった。だがライブはというと、少しずつよくはなっているけど、飛躍的な進化とまでは感じることができなかった。ツイッターを見る限り好意的な感想が多かったが、自分としては大好きなアーティストだけに「もっとやれるはず」「もっと変化がつけられるはず」と、そんなモヤっとした気持ちが残るライブとなった。
ところで終演後に会場内である若い女性に声をかけられた。僕が尊敬するシンガー・ソングライター、加奈崎芳太郎さん(元・古井戸。最近になって加奈崎芳太郎with IMAIKE ACCIDENT’Sという新バンドを始動させた)の娘さんで、諏訪からわざわざアウスゲイルのライブを観に来られたとのことだった。彼女は2~3年前、ラジオから流れてきたアウスゲイルの曲を聴いて、冬の諏訪の景色にこんなにピッタリくる音楽があるのかと衝撃を受け、そこからアルバムを買ってズブズブとハマるように。そしてアウスゲイルをきっかけにアイスランドの音楽をいろいろ聴くようになったのだそうだ。新木場の駅まで話しながら帰ったのだが、ビョークやシガーロスのようにワールドワイドで活動している有名なアーティストだけじゃなく、母国語で歌っている僕も知らないアイスランドのミュージシャンも彼女はいろいろ知っていた。因みに、なぜ僕のことがわかったのかというと、以前、加奈崎さんのライブで加奈崎さんと僕が話していたのを見て顔を覚えていてくれたらしい。聞けば、加奈崎さんと泉谷さんの言葉を僕がまとめた『ぼくの好きなキヨシロー』も当然読んでいて、それから数年してアウスゲイルのCDを買ってライナーを読み、同じ人が書いていることに気づいたのだそうだ。
加奈崎芳太郎さんとアウスゲイル。諏訪とアウスゲイルの音楽(諏訪の景色や空気にアウスゲイルの音楽が合うのは、前に諏訪湖のまわりをのんびり散策したことがあるだけに実感としてわかる)。まさかこんなふうにしてそれが結びつくなんて。しかも自分が学生の頃から好きで聴いてきた尊敬するシンガー・ソングライターの娘さんと、北欧の歌手のライブを介してこうしてお話しているなんて。それは自分にとってなかなかエモーショナルなことだった。音楽って不思議だ。音楽を好きでよかったし、こういう仕事をしていてよかった。と、そんなことを思った新木場からの帰り。今度また諏訪に行くことがあったら、景色を見ながらアウスゲイルを聴きつつ歩いてみよう。









