悲しみは時と共に薄れゆき
寂しさは日々の忙しさに埋もれていく
けれど、不意に聴こえる智の声に
現実が襲いかかる。
智を忘れたわけじゃない。
でも…………
智の顔や声が思い出せなくなってくる……
あんなに愛して
あんなに抱き締めた智を………
思い出せないくなってくる……
それが…………
それが……………
凄く…………
怖い…………
『なあ智…………
もうソロソロ迎えに来てくれないか?』
智の記憶を取り戻したくて
子どもたちが大学卒業を期に
未華子と離婚した。
未華子には本当に感謝しかない。
ずっと……
俺なんかのために
智との約束を守ってくれた未華子。
でも、いつまでも甘える訳にもいかない。
この家には智が未華子に遺したものだ。
俺が出ていこう。
俺は智の記憶だけを手に
安いアパートを見つけ引っ越した。
6畳二間で狭い台所にトイレとお風呂
俺だけなら十分だ。
智が描いた絵を早速タンスの上に立て掛けて
『なあ、智
もうソロソロ迎えに来てくれないか?』
と、問いかけた。