救急車で運ばれて

病院に行ったのに

処置室の中に智がいるのに

看護婦さんがやって来て

『もう、消灯ですので

今日はお帰りください。』

と、言われてしまった。

『どういう状態ですか?』

って、聞いたら 

俺たちの心配もよそに

『大丈夫ですよ。

明日には、先生からお話があると思いますので

今日は、お帰りください。』

そう言って、にこやかに微笑まれた。


俺たちの話なんて聞く耳がないようで

『どうぞ…………(お帰りください)』

と、帰える方向を促すように

手を差し示した。


俺たちは顔を見合わせて

『じゃ、

じゃあ………帰ろ………っか……』

って、

看護婦さんに

「よろしくお願いします。」

と、頭を下げて二人で帰ってきた。








『看護婦さんの態度からすると

大したことないんだろうな。』

松岡さんはラーメンを啜りながら

『大袈裟に騒いで悪かったな。』

と、謝ってくれた。

『いえ。

連絡もらって助かりました。

俺、明日病院に行ってきます。』

『そうだな。

俺はちょっと明日予定が入ってるから

なんかあったら連絡くれよ。』

『はい。』

そう言って、返事をしてから

俺たちは何を話すこともなく

ただラーメンを啜り

『じゃあな。』

と、別れた。






時計を見ると10時を過ぎていた。

真っ暗い家の前にたつと

足下から震えだして

覚束無い手で鍵を開けた。

なんだか………

なんだか……………

智を…………

智を失ったような

そんな喪失感に一瞬鳥肌がたった。

急いでアトリエのドアを開けて

智の存在確認をするが

そこには智の姿は無く

大きいキャンバスにはまだ乾ききってない

絵の具が乗っていた。

近づいて行くと

床に赤黒い染みを見つけて

それが血だと言うことに気がついたとき

俺は床にヘタリ込んだ。


『………さい……再発………?…』













「……しょ……翔くん…………

翔くん。

ほら見てー。

大きいカブトムシ見つけたよ。」

智の声に俺は振り向くと

大きな銀杏の木の下に幼い智が立って手を振っている。

俺が近づこうとすると

俺の脇を

また、幼い相葉くんが駈けていく。

「わーほんとだ。

ねえねえそれちょうだい。

俺にちょうだい。」

そう言って、智の周りで跳び跳ねてる相葉くん。

幼い日の思いでの場面なのに

なぜか俺は大人のままで

「だめ。

これは翔くんに見せてから

森に返すの。」

と、小さい智が

俺に捕まえたカブトムシを見せてくれた。

不貞腐れた顔の相葉くんが

「俺が一杯にしてあげるのに

赤ちゃん産んで大家族にしてやるのに

だからちょうだい。」

と、手を出す。

智はそのカブトムシを背中に隠して

「まー君、

そう言ってすぐ殺すじゃん。

大事な命なんだから

まー君には預けらんないよ。

それにカブトムシにだって

お父さんお母さんがいるんだよ。

心配しちゃうから

もといたところに返してやるの」

「ねぇ。」

そう言って俺に同意を求めるから

俺は

「そうだね。

死んじゃったら可愛そうだよね。」

と、うなずいた。

「うん。

誰でも死んじゃったら悲しいよね。」

智の声がちょっと大人びた声になってきて

「うん。?」

返事をしながら気が付くと

大人になった智が

「翔くんは?

俺が死んだら悲しい?」

と、言う。


「…か……悲しいに…………

悲しいに決まってるだろ。

悲しくて………

悲しくて……………

悲しくて…………………

おれは……………

生きて…………行けない…………」

俺は言いながら

涙が溢れ

涙が喉に詰まって

上手にしゃべれない。

智が、俺の涙を拭って

「バカだなあ……翔くん。」

と、笑った。

「俺がいなくなったって

翔くんには

いく場所も

大切に思ってくれる人も

大事な人もいるんだよ…………忘れた?

……大丈夫……

ちゃんと、生きていけるから………

…………大丈夫…………

大丈夫……………………大丈夫だから………………」

俺は泣きながら

智にしがみついた。

智の優しく俺を宥めるように言う

「大丈夫」って声が段々と聞こえなくなった頃

俺は目覚まし時計の音で目が覚めた。




枕はびっしょりと濡れていた。