頑固な智は
アトリエのドアを閉めて
俺を拒絶した。
「治療はしない。」
それって…………
俺の頭には紛れもなく
たったひとつの文字が浮かんで離れない。
「死」
まるで、死神が智の隣で
今にも鎌を降り下ろそうと俺を見て笑ってる
そんなことが頭に浮かび
俺は尚一層力を込めてドアを叩いた。
何度も何度も
呼んでるのに
何度も何度も
叩いているのに
智からの返事は結局…………なかった。
俺はドアを背に蹲りながら
「智を………
智を連れていかないで…………
智を……………
お願い…………
お願い……………………」
って、祈りながら
いつのまにか眠ってしまった。
描きかけのキャンバスの前に座ると
自然に手が筆を取り描き始めた。
今は、何も考えずに
没頭出来るものがあってよかったと思う。
フッと気付くと
いつの間にか外は静かになっていて
翔くんが諦めて寝てくれたようだ。
このまま、アトリエに
綴じ込もってばかりもいられないし
用も足したいとドアを開けたいのに
ドアが動かない。
力を込めて押してみると
そこには翔くんがドアに凭れて眠ってた。
俺が押したことで
目を覚ました翔くんが
ゆっくり俺を見上げて
『…………智が……………
死……んだ…かと……………思った。』
って、涙で一杯の目を向けた。
「言葉も出ないよ。
俺……………」
俺は、言葉もなく翔くんを抱きしめた。
「翔くんごめん。
翔くんごめん。」
って、言いたいのに
言葉が出ない俺…………
言葉の代わりに涙だけは出るの
本当は泣かないって決めてたのに
なんで、涙だけは出るんだよ。
くそー…………
俺たちは
廊下に座って抱き合いながら泣いていた。
『はい。
コーヒー。
暑いよ。』
俺の前に暖かい湯気が香る
マグカップを差し出して
翔くんは俺の隣に座った。
『もうすぐ朝だね。』
って、俺はマグカップを受け取ると答えた。
『うん。』
翔くんは返事をするとコーヒーを一口飲んだ。
静かでゆっくりとした時間の流れ
触れあった膝から
少しずつ色が戻ってくるような
そんな感覚に
なぜか安心してた。
二人で、思いっきり泣いたからかな………
昨日の夜は沈黙が怖かったのに
今は、この沈黙が心地いいって
思っていた。
フーフーってコーヒーを冷ましながら
『俺、緩和ケアの病院に移ることにした。』
って、自然に口から出てきて驚いた。
少し間をおいて
『もう……………決めた……の?』
翔くんはジーっと自分の残りのコーヒーを眺めながら
俺に尋ねてきた。
『……………うん。』
『…………………そっ………か……………』
そう言うと、
翔くんはまたジーっとカップを見て動かない。
『…………俺………………
最後まで…………
翔くんと……………
ずっと一緒にいたいんだけど…………
だめ?
かな……………』
って、翔くんの膝に手を置いて尋ねてみた。
翔くんは持っていたカップをテーブルに置くと
『智は、頑固だから
自分で決めたことは絶対だもんな。
誰が何を言ったって
変えないもんな。
俺は………………
俺は…………………………
智の…………側にいるって…………
ずっと前から言ってるじゃないか…………』
そう言うと俺を抱き締めて
『大丈夫。
俺が死神なんてやっつけてやる。
俺がずっと側にいるから。
大丈夫。
俺たちは最後まで一緒にいよう。
愛してる智。
愛してる。』
って、何度もキスをしてくれた。
最後のその日まで…………
翔くん…………
俺を……………愛してね。