『翔くん。

今度のお休みに双子ちゃんたちに会いに行こうよ。』

朝食を食べながら智が言い出した。

『え?

大丈夫なの?』

俺は思わず声がでかくなった。

智は、笑いながら

『大丈夫だよ。

無理はしないから…………』

と「大袈裟なんだから」といって笑う。





智が笑う。

きれいな顔で笑う。

頬が痩けて

顎がシャープになって

なんだか女の人かと錯覚する。

俺は一瞬みとれてしまうんだ。

だから、いつも返事に間が空いてしまう。

『う……………ん。

わかった。

じゃあ、計画立てとく』

そう言って、智から目を反らす。

『うん。

お願い。

ねえ、赤ちゃん大きくなったかな………』

智は楽しそうに窓から空を見上げた。

『この間、歩いてる写真が届いてたじゃん。』

俺は食器を流しに持っていきながら答えた。

『うん。

もう、歩くんだね。

早いもんだね子どもの成長は………

会いたいなあ…………』

青い空は雲ひとつなく

澄みきって天高く

秋を思わせる。

俺も智の隣に立つと一緒に空を見上げ

『そうだね。』

って、呟いた。 










『本当に、体調悪くなったら

直ぐに言うんだよ。

わかった?』

『わかったって。』

翔くんが心配してるのはわかるけど

あまりに過剰すぎて

俺はちょっとつっけんどんに返事をしてしまった。



今日は久しぶりに故郷に帰る。

もう、これが最後だと思うと

全てを目に焼き付けて起きたくて

寝てる暇はない。



山々は色とりどりに着飾って

それはそれは美しく

画家の俺の心を奮い起こさせる。

「帰ったら………描いてみたいな………」



翔くんは事故現場を覚えていて止まってくれたから

父ちゃん母ちゃんに手を合わせた。

お墓にも行ってきた。

綺麗に雑草が抜かれていて掃除してあり

彼岸に供えたお花が差してあった。









『智くん!!』

俺の顔を見て驚いてるのは俺の叔母さん。

高一の夏休みに会って以来だ。

ちょっと白髪が増えたけど

変わらない姿で駆け寄ってきた。

『元気だった?

ちょっと痩せすぎじゃないの?

今どこにいるの?

心配したのよ。』

と、言って

『ちょっ、ちょっと待ってね。

お父さん、お父さん智くんが来てるのよ。

早く来て。

はやくー』

と、奥に声を掛けた。



ドタドタと叔父さんが奥から走って出てきて

『智!!

お前今までのどこにいたんだよ。

心配したんだぞ。』

と、俺を見るなり

顔をくしゃくしゃして怒ってた。

叔母さんは

『あの時はごめんね。

ごめんね。』

と、謝って

中学生の俺を引き取れなかったこと

「家はあの頃小学生の娘が二人いて

とても、思春期の男の子を引き取る勇気がなかった。」

とか、

「自分達の生活だけでも大変だった」

とか、

色々言われたけど

そんな昔の事はもう忘れちゃった。

今は、

ただ、感謝したかったんだ。

『今、お父ちゃんたちのお墓に行ったら

掃除がされていて

花が添えられていたんです。

それって叔父さんたちですよね。

ありがとうございます。』

俺は頭を下げた。

俺がこっちにいない間

墓を守ってくれてたんだから


『ああ、行ってきたのか?

兄さんたちも喜んでただろ。

時々、花が添えられていたんで

お前が来てるみたいだったから

生きてるとは思ってたんだ。

いや、よかった。

よかった。』

と、父ちゃんに似た笑顔を俺に見せた。

そう言えば、父ちゃんってこんな風に笑ったなって

思い出したらちょっと鼻の奥がいたくなった。

俺はそれを堪えて

『今後も………

そうそう帰ってこれないと思うので

お願いしてもいいですか?』

俺がいなくなっても

父ちゃんたちの墓を守ってほしくて

そう尋ねた。

『遠くに行くのか?』

と、叔父さんに聞かれて

ドキっとした。

疑われないように

『え?

ええまあ………』

って、曖昧に答えて

『それじゃあ、

友達を待たせてるから』

そう言って、俺は最後の別れを告げた。









『え?

もういいの?』

俺が車に乗り込んで来たことで

車のなかで新聞を読んでた翔くんが

『久しぶりだったんだろ。

俺のことなんて気にしないで

もう少しゆっくりしてくればよかったのに』

と、言いながらエンジンを掛けた。

『うん。

ありがとう。

でも、そんな話もないよ。』

俺の様子を伺うように

『…………言えた?』

と、聞いてきた翔くんに

『うんん…………

言わなかった……………』

と、答えた。

翔くんは「そっか」と俺の手をギュッと握り

車を走らせた。