『うわぁ………
ほんとに大きくなったね。』
多部ちゃん………あっと間違えた。
翔くんの奥さんが
赤ちゃん二人を乳母車に乗せてやって来た。
『大野さん。
お久しぶりですね。
お元気でしたか?
翔さんもかわりない?』
と、にこやかに俺たちに微笑みかけた。
『あ、うん。
元気だよ。
ごめんね。
こんなところに呼び出して。』
と、俺が答える。
"こんなところ"ってのは
俺たちの思い出の場所である神社。
俺たちの思い出の銀杏の木は
黄色く色づいて下には銀杏の実を落してた。
『大丈夫よ。
ここはよく来るの。
子どもたちの遊び場だから』
って、
「抱っこ」をせがむ子どもたちを抱え上げて
乳母車から下ろした。
下ろした途端にあっちにこっちに動き出す子どもたち。
『そっちはダメよ。
こら、そんなの舐めないの。
ばっちいでしょ。
お手てパンパンしなさい。
あ、こら。
人のものをとらないの。
転ぶから走らない。
こらー…………』
未華子さんは世話しなく動く子どもたちの後を追って
ゆっくりベンチに座ってることができないほど
その内
翔くんが二人を追いかけて
子どもたちが"キャーキャー"と逃げる遊びをはじめて
その光景を俺はずーっと見てた。
『大野さん、
また………痩せたんじゃない?』
と、不意に聞こえてきた声に隣に目をやると
子どもたちの面倒を翔くんに任せたのか
未華子さんが座ってた。
ちょっと離れた場所で
砂遊びを始めた3人に聞こえないように
『君に……………
お願いがあるんだ。』
と、俺が小さい声で話しかけた。
『大野さんが?
私に?』
と、驚いて目を丸くする彼女に
『うん。
これ……………』
俺は一通の手紙を差し出して
『俺が…………しん………
いや、俺が帰ったら読んで欲しいんだ。』
と、手渡した。
不思議そうに受け取ると
『家に帰ってから読めばいいのね。』
と言って、乳母車のポケットに仕舞った。
それから、ふっと何かを思い付いたのか
『………ま………まさか………………』
って、哀れむような目で俺を見たから
俺はその後に続く言葉を遮って
『子どもたち、いい子達に育ってるね。
お父さんがいないのに。
未華子さん、ありがとう。』
と、頭を下げた。
俺が頭を下げたもんだから戸惑ったのか
『え…………
あ、うんん。
とんでもない。
こっちにいると沢山の手があるから
私も本当に助かってるの。
だから…………気にしないで…』
『うん。
君の優しさに甘えてばかりでごめんね。』
と、俺は思いっきり明るく答えた。
『…………いいのよ。
そんなこと……………
あ、大野さんが描いたこの木の絵
実家に飾ってあるのよ。
結婚祝いに貰ったのに
私が気に入って持ってきちゃった。』
未華子さんの声がちょっと震えてたのを
俺は気付かない振りをしながら
『あ、
そうなんだ。
気に入ってくれたなら
よかった。』
と、そう言って見上げた銀杏の木。
変わらず、
ここで俺たちを見てるんだ。
俺たちが子どもだった頃。
まーくん、ニノ、翔くん、俺………
いつもここで走り回って遊んでた。
何も心配することもなく
ただ、無邪気に明日が当たり前に来ると信じて
泥だらけになって遊んでた。
そして、中学生になった俺たち。
少しずつ関係が変わっていって
好きだけじゃどうにもならないことを知り
苦しんだり…………
悲しんだり……………
それでも、
合間、合間に訪れては話しかけてきた銀杏の木。
俺は見納めとばかりに
見上げていたら
涙が頬を伝うのを感じて
慌てて手の甲で拭って隠した。
『おい。
なんだか臭いんだけど。』
って、翔くんがちびっこを抱えてやって来て
その臭いで俺の感傷も吹き飛んだ。