体調がいいうちにやりたいことや
すべきことがたくさんあるのに
思うようにはかどらないもどかしさ。
26才の俺は…………
あとどれくらい生きられるんだろうか?
辛い体を引きずってアトリエに入ると
描きかけの絵に色を落とす。
キャンパスの中で翔くんが笑ってる。
破壊力のある
俺の大好きな顔。
「これを渡したとき
どんな顔をするだろう。」
翔くんの嬉しそうな顔が思い浮かぶ
そうすると、段々と元気が湧いてくるから不思議だ。
寒さも増して
ストーブの上のヤカンがカタカタと音を出して
沸騰したことを教えてくれた。
温かいコーヒーを入れて
ゆっくりと息を吹き掛けると
俺の前に白い煙が立ち込め
そこに無理して笑う翔くんが映る。
『ごめんね。
翔くんに無理させてるよね。』
『俺が…………
俺が……………死んでも…………
翔くんは生きてね。
俺の分も生きてね。
翔くんが……………
翔くんが……おじ……
…おじいちゃんになったら………………
迎えに来るからね。
それまで……………
ちゃんと生きてよね。』
俺は、そう呟きながら
キャンバスの中の翔くんにそっと手を伸ばす。
智がアトリエで何かをしているのは知っていた。
俺に「入らないでね」と約束させて
体調がいい日は
朝から晩まで出てこないときもある。
俺は心配でたまに声を掛けると
『大丈夫だよ。
自分の体の事は自分が一番知ってるから
無理しないから。』
と、返ってくる。
本当に大丈夫なのか心配だけど
これ以上どうもできない俺。
『アトリエで何やってるの?』
夕食時に智に聞いてみた。
『う~ん…………』
智は言葉を探しているのか
目を上に向けて
それから
『………俺が…………死んだらさ………
翔くんが後始末に困るだろ。
だから………』
と、言う。
その言葉に
『し、死んだらなんて…………
言うなよ。』
と、俺の声がでかくなる。
そのあとに続く沈黙。
「最後まで笑っていよう。」って、
約束したのに………
どうも上手に笑えない。
箸が止まっている俺に
『ところで、
これ翔くん作ったの?』
って、しょうが焼きの玉ねぎをつまみ上げて
『腕上げたね。
美味しいよ。』
と、口に運んでいた。
『ははは………
これね…………焼き肉のたれなんだよね。』
『なんだ。
どーりで美味しいと思った。』
と言って、智はきれいに笑った。
綺麗な笑顔を見て
堪らなくなって涙が溢れた。
『好きだよ。
愛してる。
俺は智を愛してる。
この思いはどんなに時間が経っても変わらない。
変わらないどころかどんどん大きくなる。
智がいない人生なんて
俺にはなんの意味もない。
俺は、智がいなくなったら
やっぱり生きてはいけない………』
言葉は嗚咽となり意味不明なものとなる。
智が俺の隣に来て
俺の背中を擦ってくれるけど
止まらない。
「神様……………
どうか………………
俺を憐れに思うなら……
どうか………………
どうか……………………
俺も…………一緒に…………
取り去ってください。」
『翔くんは…………
生きなきゃ……………ダメだよ。
まだ、その時じゃないんだから…………
俺は翔くんの側にいるから
翔くんの側で風になって
側にいるから。
ね。
忘れないで…………
翔くんがおじいちゃんになったら
俺が迎えにいくから。
それまで…………………ね。
それに………
それに…………
翔くんは子どもたちに…………
養育費払わないと。』
と、俺を覗きこんでクスッと笑った
でも、その目には涙が溢れてた。