『うっ……』

胸が締め付けられるような

そんな痛みに

無理矢理夢から吐き出された。

苦しい胸を押さえて体の向きを変えて

しばらくすると痛みは消えて

荒い息だけが残った。

『ハアハアハアハア………

なんだ?

この痛みは…………』

こんな痛みは初めてで

夢の中で、智が言った言葉

「………医者に………行ってね。」

を思い出し

ゆっくり体を起こした。

それは、初めて"死"と言うものを意識した瞬間だった。



その日から俺は自分の身辺整理を始めた。







『よう。

元気か?』

俺が訪ねたのは松本潤のところ

最後に会ったのはずいぶん前

まだ、お互い若かった頃だったと思う。

今ではすっかり爺さんになり

印象的だった眉毛も頭髪と共に白髪混じりになり

少し顔が薄まったように思える。

訪問した俺を見ると驚いて

『え?

櫻井?

お前が俺に会いに来るなんて

珍しいじゃないか。

それにしても老けたなあ…』

と、家に迎え入れてくれた。



社長の職を息子に譲り自分は会長の立場となり

今は悠々自適に暮らしていると聞いた。

「老けたな……」の言葉に

『お前もな。』

と、俺はちょっと口角を上げて返した。



あんなに嫌っていたのに

あのわだかまりはいつの間にか消え

ただの幼馴染みのような不思議な感覚

これが時間の成せる技なのかもしれない。





『実は、お前に預かってもらいたいものがあって………

これなんだ………』

と、俺は大きな包みを差し出した。




『なに?

え?

これって………』

包みの形状や感触から悟ったのか松本が

俺が持ってきたものが智の絵だと気付いたようで

俺を"なんで?"と言う顔で見返してきた。

『そうだよ。

お前に預かってもらいたいんだ。』

『なんで?』

『なんで……

なんでだろうな…………

わかんねえ……

俺にもわかんねぇ』

俺にもわからないんだ。

大事な智の絵を、

なんで松本に託したいって思ったのか………



俺が持ってる唯一の作品。

「銀杏の木」と「partner」(俺の肖像画)





『あの頃は………

ガキだったよな。』

と、松本がコーヒーを注いでくれた。

『実際、ガキだったしな。』

俺は答える。

『そうだな。

だから…………………

智には辛い思いをさせた。』

そう言うと松本は

しみじみと智を思い出してるように

コーヒーの湯気の向こうを見つめてた。




『これ、お前がもっていてくれ。』

改めて松本に頼むと

『本当に?

いいのか?

こんな大事なもの

俺が持っていていいのか。』

と、何度も聞いてくる。



本当は知ってるんだ。

松本が売られて行った智の絵を買い取って

集めていること



『大事なものだけど

智の絵を俺だけの物にするのも

なんか違うし……って

実際、俺の顔だし…な……

お前なら、智の生きた証を

智がどんなに才能に溢れた

前途有望な画家だったか………

お前なら…………』







それからしばらくして松本の主催で

智の絵画展が小さいフロアーで行われることとなった。