術後3時間が経過したら、酸素はオフになる。
飲水も可能だ。
なんだろう、音は聞こえるのに耳がない気がしてならない。
その耳周囲を手術したんだから、あるに違いないのに何度もそう思った。
どんどん感覚が戻るのに、なぜか耳だけが感じられない。
よくわからないが、左の下の歯が全部痛かった。
指で確認するけど、どの歯を押しても痛くは無いのに、我慢出来ないくらい痛い。
素直にナースコールを押せばよいのに、その痛みは本気で歯が痛いのかもしれないと疑って、恥ずかしくて押せない。
違う。
痛みなのか、わからなかったんだ。
これは不快な症状だけど、痛みだと感じる余裕がなかったんだと思う。
手術は午後からで、私が部屋に戻った時は丁度夕食時だった。
配膳して下膳して、食事介助して。
やれ夕検だ、やれ時間点滴だ、配薬だと一番忙しい時間だと感じていた。
わけのわからない訴えで、看護師の手を煩わせてはいけないと思った。
そんな時だけ、いい人で居たいと思うのはなぜなんだろう。
そろそろ消灯という時に、看護師はやって来た。
酸素を止めて、SpO2の低下が無いことを確認している。
痛かったら薬ありますよ、そう声をかけてもらい素直に応じた。
座薬の方が早く効果があるので、入れてくれた。
希望であれば尿の管も外せるといわれ、お願いした。
酸素も、尿の管も、やはり煩わしいものだった。
日付が変わる前に、トイレに歩く。
正直、まっすぐ歩いてるのか不明だった。
一歩がわからない。
まるで月面にたどり着いた宇宙飛行士のように。
でも、トイレに行った。
それに満足。
気づくと痛みは全くなかった。
薬って、すごい!
感激しながら、ふと声に出した。
「私の左耳って、ついてますか?」