武漢の女性の波乱万丈人生 | 大野純司のブログ

武漢の女性の波乱万丈人生

 私はハワイの教会でボランティアですが牧師をしています。家の教会と言って、せいぜい10人程度で、増えると株分けするという形で増殖していきます。私たちの教会は日本人が多く、その多くが日本に帰りますので、ハワイではなく日本で増えました。私はそれらの教会のまとめ役のようなものですが、大してすることもないので、ボランティアで済むのです。

 しかし、松山で母の介護をするようになり、ハワイの自分の教会に参加できなくなりました。当時はコロナの真っ只中で、どこの教会もオンラインで礼拝していたので、私もそうしましたが、いつまでもズームでやっているわけにはいきません。

 私の教団のハワイ教区牧師はキモさんと言う日本生まれのハーフです。教区牧師と言うのは、自分の教会はないが、教区の牧師たちの牧師、つまり牧師たちを世話する仕事です。

 彼も自宅近くの教会に通っていますが、ただ礼拝に参加するだけで他に特にすることもなかったので、私たち同様、家の教会を始めたいと思うようになりました。去年、私がどのように始めたか知りたいということで、相談を受けたのです。他にも始めたいという人が何人かおり、それらの教会のネットワークを作りたいということでしたので、私の家の教会もそれに合流することにしたのです。と言うわけで、私もハワイに帰ると彼の家の教会に通うようになりました。

 

 ある日曜日、キモさんの知り合いで、中国に宣教師として行ったダイアンさんが、中国でクリスチャンになった若い女性と一緒に礼拝に来てくれ、その女性の話を聞くことができました。リウフイフイさんと言いますが、アリアと言う英語名を使っています。興味深い話でしたので、共有したいと思います。

 彼女は、コロナですっかり有名になった武漢からそう遠くない村で生まれ育ちました。中国は、当時一人っ子政策でしたが、田舎では施行されていなかったそうです。アリアさんの兄弟は、姉と双子の妹がいましたが、中国では、社会的にも法律的にも男の子がいた方が有利なので、お父さんと彼の母親は、女の子しか生まれなかったことを、アリアさんのお母さんのせいにしていました。

 お婆さんは、まだ幼いアリアさんと双子の妹を何度も殺そうとしたそうです。冬のある晩、母親に気付かれないように二人を外に連れ出し、雪の中に置き去りにしたそうですが、お母さんが気づき、助けに来てくれたそうです。肥溜めに落とされて、近所の人に助けられたこともあったとか。一度は、林の中に置き去りにされて、野良犬の餌食になる所でしたが、お母さんに発見されるまで、洞穴に隠れて助かったこともあったそうです。

 その後、弟が生まれましたが、三姉妹の艱難は続きます。お姉さんは歳が一歳しか離れていなかったそうですが、遠い中学校の寮に3人も入れるお金がなかったのです。そのため、テストで一番良い成績を取った子だけが行かせてもらえることになりました。

 妹は当日体調を壊してテストを受けませんでした。姉たちに遠慮しただけかもしれません。お姉さんは99点、アリアさんは100点満点でした。お姉さんは、自分も中学に行かせてほしいと懇願したそうですが、その願いは聞かれませんでした。お姉さんと妹は武漢の工場で毎日10時間、立ちっぱなしの厳しい労働生活を強いられました。

 寮は夜10時が消灯でしたが、アリアさんはその後もトイレで電気をつけて勉強しました。中国では左手で文字を書くことが許されていないらしく、左利きのアリアさんは苦労したそうです。学校に行けなかった二人の姉妹の分も勉強し、非常に良い成績でしたが、大学受験で落ちてしまったのです。

 実家でその報告をしたとき、お父さんはテーブルの上に除草剤を置いて、飲んで自殺しろと命じたそうです。お母さんも、死体を入れる袋を持ってきて、早くしなさいと促したそうですが、他に入れてくれる大学があれば、一生両親の面倒を見るからと約束して、許されたそうです。

 幸い、別の大学に入学でき、祖国が嫌いで、外国に憧れていたアリアさんは、英語を専攻しました。アメリカ人が経営していたレストランでアルバイトするようになったのですが、それが、ダイアンさんが経営するアロハ・レストランでした。人気メニューはロコモコだったそうです。

 ダイアンさんは、アリアさんのことをよく褒めたそうです。奇麗だとか、立派だとか、今まで言われたことのなかったアリアさんは、なぜダイアンさんはこんなにいい人なのか、不思議に思うようになりました。

 彼女がクリスチャンであることを知ったアリアさんは、キリスト教のことをもっと知りたいと言ったところ、ダイアンさんは聖書をくれたそうです。しかし、読んでもさっぱり分からず、眠くなるばかり。ある晩、アリアさんは、「イエス様、あなたが本当にいらっしゃるのなら、姿を見せてください」と祈って寝たそうです。

 その晩、まぶしい光が現れ、夢ではないかと思った左利きのアリアさんは、左手で右手をつねってみました。確かに痛い。夢ではないと気づいたアリアさんの前に、5人の天使が現れたそうです。真ん中に立っていた天使が、「恐れることはない。神はあなたを愛しておられる」とだけ告げて、彼らは立ち去りました。翌朝ルームメイトに聞いても、彼女たちは何も知りませんでした。

 アリアさんは、自分が愛されているのだから、自分も人を愛なければいけないと思い、母に電話して、I love youと生まれて初めて言ったそうです。長い沈黙の向こうで、お母さんがすすり泣く声が聞こえてきました。お正月に帰省して、家に入っていきなり、お父さんに抱きつきました。お父さんは困惑した様子だったそうですが、今まで視線を合わせることさえなかったお父さんとのしこりが、一気に溶け始めました。

 アリアさんの兄弟は、全員クリスチャンになったそうで、弟さんもアロハ・レストランで働いたそうです。ご両親は改宗したわけではありませんが、いつもダイアンさんは元気かと聞いてくれるそうです。アリアさんも、二人の面倒を見るという約束を果たすことができ、お父さんは生まれて初めて自家用車を持つことができました。

 その後アリアさんは、ある宣教師夫婦の赤ちゃんのベビーシッターをするようになりました。生命尊重団体で活動するようになり、中絶を検討していた女性や夫婦の相談相手になって、159人の胎児の命を救うことができたそうです。それがきっかけで、赤ちゃんを産んだこともない彼女が、子育て相談に乗ったり、夫婦のカウンセリングをしたりするようになりました。ベビーシッターの経験が役に立ったのでしょう。

 アリアさんが通っていた教会は、600人ほどの信徒さんがいる地下教会でした。ここ数年、迫害が厳しくなり、教会堂が壊されたり、クリスチャンが刑務所に入れられたりすることが増えたそうです。アリアさんの教会にも、刑務所から出られない牧師さんがいるそうです。中国政府としては、習近平以外のものに忠誠を誓う人がいたのでは困るということなのでしょう。

 政府の意向とは裏腹に、信じるなと言われれば人は余計に興味を持つようになります。彼女の話では、中国では約10人に一人がクリスチャンだそうです。もう10年以上前、日本の有名な週刊誌に、中国のクリスチャンが1億人に達したという記事が大きく載っていましたが、それに近い数です。また、タイムズ誌の北京支局長を務めたデイビッド・エイクマン著Jesus in Beijing(2003年)にも、同様の記述があります。

 以前は全員集まって礼拝をしていたのですが、迫害でそれができなくなり、今は私たち同様、隠れて家で教会をしているそうです。一か所10人程度で、現在62か所あります。アリアさんは、月末、迫害の待つ中国に帰られました。