通りを川越街道の方へと進む。
沿いの歓楽街には、こんな時間なのまだまだ沢山人がいた。
相変わらず目に毒だ戯れてる奴等を見ると、やっぱり今でも苛々する
「家で大人しくしてろよ」
ナカタは歩きながらボソッと声に出した。
喧騒から徐々に離れていく。
ここらに来ると、外人の方が多くなるな
アジア系にアラブ系だ
アフリカ系はあんまりいねぇな
ナカタは夕方の事故現場の辺りまでやって来た。
飛び出したヤマダが跳ねられた所だ。
流石に警察はもういなくなっていた。
大通りを突き当たる手前で横に折れて小路入る。
すぐそこはカヨコの母親が殺された現場だ。
路上にチョークが走らせてある。
遺体の跡を警察がマーキングしたんだろう。
ナカタは暗くてよく分からないが、微妙に路面の色が他の箇所と違うように見える。
血痕て事だろな
ちょっと見つめてから、ナカタは自室のあるアパートまで歩いた。
そういや頭いてぇと思ったら、すっかり自ら頭突きした事を忘れていた。
そんな事もあったなぁ
友人と昔話を掘り出した瞬間のように思った。
まぁ、俺友達いねぇけど
ナカタはそれから自室の扉を開けた。
ムワッとする。
夏の暑さがこもってるからな
改めてきたねぇ部屋だと思った。
ナカタは敷いたまんまの布団の上のリモコンを拾い上げ、冷房をつけた。
しばらくフィルターを換えてないんで、どこかタバコ臭い風がまず立つ。
いつもならそのまんま寝るとこだが、流石に嫌だったんで、ナカタはシャワーを浴びる事にした。
服を脱いで洗濯機に放ると、少し弛んだ腹を擦りながら風呂場に入る。
熱いのは苦手なので、ぬるま湯にして頭からかける。
あ~いってぇな
水が額に染みる。
ナカタは髪の毛が殆んどボウズなので、頭から全身をボディーソープでやっつける。
泡がたって匂いがつけば正直何でも良かった。
カラスの行水が終わる。
髭剃りまで入れて、ものの五分で風呂場から出た。
バスタオル越しに頭を掻くようにすると、すぐに水気がなくなる。
頭から足元までサッとあっさり拭って、バスタオルを腰に巻く。
頭が少し痛かったが、心は少しスッキリした。
現金なもんで、またビールが飲みたくなる。
買い置きあったかな
ナカタは冷蔵庫を開けてみた。
中は殆んど空っぽに近かったが、一本だけ缶ビールが入っていた。
気が利くじゃねぇか
一昨日の自分に言ってやる。
ナカタはタブを開き、もらった処方箋を口に含むと、ビールでそれを流し込んだ。
冷え冷えだな
冷房が効いて、狭い部屋が冷え込む。
寝るか
ビールはすぐに空になっていた。
ナカタは厚手の布団に潜り込んだ。
部屋を寒くして布団で寝るのが好きなもんで
こういう奴って絶対いるだろ
目を閉じたらとても気分が落ち着いた。
やに珍しいね
こんな落ち着く事ってあんまりないんだけどな
ナカタはそのまんま静かに意識を失った。
そうなったのは、夕方貰ったものでなく、樹海に持ち込んだ向精神薬を間違えて飲んでの事だった。
山手線は最終に近いのに、まだかなり込み合っていた。
こんなもん、終電でもまだ回収できないぐらい人がいるんじゃねぇか
スズキはそう思いながら日暮里の駅に足を着けた。
降りたその場でわざと体を叩いた。
ベタベタ近付きやがってとのアピールを、まだ電車の中にいる人間に見せつける。
あの酒と脂の臭いを湛えた野郎のせいだ
ピストルを持ってたら危うく弾くとこだったぜと嘯く。
やれやれ
俺も疲れたな
改札を潜りながらスズキは思った。
日暮里は駅前の歓楽が乏しいので、池袋と比較すると大分寂れて見える。
まぁこんなもんで十分だよな
人の数も、喧騒も、程々あれば十分だ
これが多いとこは陰気がその影で募って、それが力を持ち始める
スズキの持論だった。
本当は誰の相手もしないのが一番良いんだけどな
それじゃ食ってけねぇから、已む無くみんな誰かと関わってんだろ
俺もさっさとそれからおさらばしたいぜ
そしたらそしたで、そのあと路頭に迷うけどな
ヘッと言いながらタバコをくわえた。
事務所の近くのコンビニでタバコを二つ買う。
最近は外人の店員ばっかりだ
スズキがよく会う顔の中国人だった。
名札にホンと書いてある。
たまに酔っ払うと、スズキから絡んで話したりしていた。
ホンは片言で返事をするが、愛想の良さがスズキの好感を誘った。
何せ夜中に利用する事が圧倒的に多かった。
事務所は道を挟んで目の前にある。
「明日も朝から学校かい?」
「はい」
「眠くて勉強にならねぇだろ」
「はい」
相変わらずつまんねぇ会話になるなぁ
スズキは笑ってそう思った。
スズキはホンに向かって手を挙げて、店を出ようとする。
「あのぉ」
ホンがそれを呼び止める。
「さっきおきゃくさまがきてました」
?
お客様?
「あそこに?」
目の前の事務所を指差してスズキが尋ねると、ホンが頷く。
「どんな人だった?」
「おとこのひとでした」
男か
何だろうね
スズキは少し嫌な予感がした。
「そっか、ありがとう」
「どういたまして」
ホンの字抜けの返事を背中に受けながら、スズキはコンビニを出た。
目の前の事務所と向き合う。
もしかしたら誰かに待ち伏せられてるかもな
酔いが少し醒める。
スズキはとりあえずと、早速買ったタバコを開けて一本くわえて火をつけた。
※上記一切は創作につきフィクションです。