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My name is Benny

しがない暇潰し

スズキはタバコの灰を灰皿に落としながら、それとなく通りの左右に目配せした。
男っても、どう見ても会社帰りの酔っぱらいしかいない。
あんまりウダウダしててもしょうがないからね
といった具合で事務所へと真っ直ぐ歩いた。
二階への階段を上がる。
まぁ、誰もいない。
事務所の扉を開けようと鍵を出すと、ノブに何かかかっている。
コンビニの袋で、中には何の買い物もなく、紙が入っていた。
チラシの裏紙かよ
事務所の扉を開けて、すぐに明かりをつけてから鍵を閉める。
何だか書いてあるね
スズキは文字を追った。
「伺いたい事があります。こちらにご連絡を願います。」
と、その後に電話番号が続いている。
何だよ、それは
いいのかね、こんな時間だけど
俺は平気でかける人間だぜ
スズキは間髪入れずに携帯からその番号を呼び出した。
「もしもし」
男の声がする。
「私スズキ探偵事務所の者ですが、不在中に残し書きを置かれました?」
スズキが尋ねると
「はい、そうです」
と男が答える。
「伺いたいとは何の事でしょう?」
とスズキが尋ねる。
「人を捜していまして」
男が答える。
「私が何か分かる事なんでしょうか?」
「もうこの時間なので、本日の十時に伺いたいと思います。大丈夫ですか?」
なんだそりゃ
「分かりました」
スズキが言うと、電話はそれで切れた。
何だか分からねぇな
人を陥れる声色じゃなかったけど、探偵に尋ねるのではなくて、俺に尋ねる事があるってのがなぁ
スズキは太々しく椅子に体を預けると、十時からの事を思案した。

ナカはバイクで出勤していた。
連絡があるまで、自宅待機の命が出ている。
やれやれ
着替えを終えて署を出ると、ナカは家路を走る。
二十分程裏道を走り、コンビニへ向かった。
深夜二時で、新聞配達の連中がチラチラいる。
新聞なんて、いまだに読んでる奴の気が知れねぇな
そう思いながらバイクを停めて、目の前のコンビニに入った。
ああ、まぁ今日はましな奴だな
ナカはホンを見て思った。
弁当コーナーに向かう。
いい加減飽きるよな
どれを見たって味気の見当がついちまうぐらいに毎日どれか食べてるせいだ。
これでいっか
ナカはミートソースのスパゲッティを手に取った。
ペットボトルの水を冷蔵室から取ると、それでレジへ並んだ。
ホンはしっかりと店員の段取りを踏まえる。
こいつ外人だけど、他の奴とは違う
「あたためますか?」
ナカは頷く。
中には聞いてこねぇバカもいるからな

チーン

レンジの音はやっぱり滑稽だな
ナカは笑いを鼻から逃がした。
「おまたししました」
「どうも」
ホンから物を受け取り、ナカは出口へ向かった。
「ありがとございますたぁ」
ほんと、真面目な奴だと思う
でも俺にはとても真似できない
コンビニから出て目の前を見ると、スズキ探偵事務所から明かりが漏れてるのが分かった。
ここって普通に人がいるんだな
ナカはしばらく界隈に住まっておきながら、それを初めて知った。
探偵ね
穿った見方しか出来ねぇけど、どうせほんとに悪いことばっかりやってきてんだろ
ナカはバイクに跨がり、その場をあとにする。
つうかこれ、温めた意味なくね
てめぇで思うが、ナカはまたその笑いを鼻から逃がした。

トヨマキの狂気に戦きながら、安置所の掃除を終えた看護師が事務所の脇を行き過ぎる。
やっと終わった
一服したくなる。
エレベーターに乗って救命病棟に戻る。
病棟は新たな患者の受け入れもままならない状況で、職員は皆少し息をついていた。
「お疲れ様」
救命医から声をかけられる。
というか誰か手伝い来いよ
めんどくさいのとトヨマキへの恐怖とに挟まれ、げに憤りそう思った。
「ちょっと一服してきます」
看護師はそう言って場を離れる。
タバコを取りに更衣室へと歩く。
更衣室の扉を開くと、ロッカーが部屋の両際に向き合うように並んでいるその真ん中に、ツイザキが倒れていた。
「え?ちょっと大丈夫?」
ツイザキに駆け寄る。
うつ伏せの肩を擦りながら呼び掛ける。
が、反応がない。
看護師が人を呼びにいこうと入口の方を向くが、次の瞬間
「…大丈夫、貧血だから」
とツイザキが起き上がりながら言った。
「大丈夫って、ちょっと横になった方がいいよ!」
「いや、ほんとに大丈夫だから」
そう言ってツイザキはつかつかと更衣室を出ていった。
横になっても治らないわよ
ツイザキはどうすれば不調を取り戻せるか、理性を傍に置きながら、何故かその方法が理解出来ていた。




※上記一切は創作につきフィクションです。