「富士の樹海へ」第五十一話 | My name is Benny

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しがない暇潰し

カネマル達が外に出た。
すぐに救急車が目に留まった。
開いた後部には救急隊員が一人血塗れで倒れている。
生死は分からない。
だがそれがどちらにせよ、もう助からないのは誰の目にも分かった。
救急車をぐるりと回るように、距離はとってカネマルが様子を窺い近付いていく。
女の泣き声がずっとしていた。
救急車の前面が見えると、そこには運転していた隊員が変貌したハシモトの下敷きになり、首を噛みつかれている場面があった。
隊員は何の抵抗も出来ていない。
もう意識がないようだった。
看護師が離れたところからその様子を震えながら見ている。
ハシモトが隊員の喉笛に噛みついて、そこからおびただしく出血していた。
ハシモトの紺色の制服がその血を吸って黒く見えた。
カネマルを先頭にトヨマキと警官が二人後ろについてそれを見ていた。
カネマルは既にピストルを抜いていた。
当初止めようとしていた同僚も、その有り様を見て銃把を握っている。
「おい!止まれ!」
カネマルがハシモトに銃口を向けて言ったが、そんな制止が届く訳がなかった。
カネマルもそれは分かっていた。
黙って撃ったら今共にいる同僚に上の連中になんて報告されるか分かったもんじゃないという保身の思いからだった。
ハシモトがようやくゆっくりとカネマル達の方を振り返る。
顔面は返り血で真っ赤に染まり、それがつきっぱなしの救急車のライトで照らされ不気味さを煽った。
ハシモトが立ち上がろうとする。
「頭!」
カネマルはそう叫びながらピストルの引き金を弾いた。
パァンと弾が発射される。
弾はハシモトの肩口に当たった。
パァン
パァン
ハシモトの怯まない動作で弾は頭に当たらず、動きも止められない。
「ッ…ファーーーック!」
カネマルは叫んで発砲した。
パァン
ハシモトの耳が弾けとんだ。
カネマルのピストルはそれで弾切れになった。
「お前ら、逃げろ!」
あまりの事に何も出来ない同僚とトヨマキにカネマルは叫んで、自分がいち早くハシモトの近くから走り去った。
「お前ら頭撃たねぇとダメだぞ!」
走りながらカネマルが言った。
同僚は二人とも逃げ道を別った。
トヨマキは建物の中に走る。
ハシモトは出っ張った腹を突き出しながらカネマルだけを追い掛けた。
「ファーック!」
カネマルはそれに気付き、逃げながら叫んだ。
敷地を駐車場の方へ走りながら、カネマルは安全そうな離れた距離にマスゴミがカメラを回してこちらを見ているのが分かった。
「全部撮るんだ!」
カネマルが連中に向かって叫ぶと、一人だけ頷いたのが見えた。
カネマルの乗ってきたパトカーがあって、そのパトカーを挟んでカネマルとハシモトが向き合った。
「おい!お前ら今のうちに撃て!」
相当離れたところで呆然としている同僚に叫ぶが、その気はないようだった。
「っざっけんなよぉおー!」
それを見てカネマルが叫ぶ。
くそったれが!
カネマルはパトカーに乗り込むと、扉をロックしエンジンを掛ける。
もう知らねぇ!
ハシモトが扉を叩くが、窓が割れる寸でで大きく車をバックで発進させた。
ハシモトと十メートル程の距離が生まれる。
「くたばれ!」
カネマルはそう叫びながら全力でアクセルを踏みつけた。
パトカーが急発進の勢いのまま、ハシモトの体を撥ね飛ばした。
カネマルはそのまままた十メートル程パトカーを進ませると、すぐにギアをバックに入れる。
立ち上がろうと四つん這いのハシモトに向かってまた車を急発進させると、ハシモトの立とうとする腕と足をパトカーの両輪で踏み潰した。
カネマルは十メートル進んで止まり、ギアを入れかえてまたパトカーを発進させる。
支えがなくなり、ただ腹這いになったハシモトの腹と頭がパトカーの両輪で潰される。
ドッパァンという音が辺りに響いた。
見ていた連中がビクッとなる。
ハシモトはようやくそれで動かなくなった。



※上記一切は創作につきフィクションです。