「富士の樹海へ」第五十話 | My name is Benny

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しがない暇潰し

いささか路外の敷地へ進入するには速いスピードで救急車が乗り付け、救命の搬入扉の前に停まった。
かなり雑で、無理矢理そこに乗り付けたようにナカタには見えた。
「何だよ、誰も出てこねぇな」
スズキが遠目に言う。
変だ。
様子に気付いたマスゴミの連中がカメラを担いで救急車の様子を窺っている。
と、運転席が開いた。
ゆっくりと。
隊員はまだ降りてこない。
何だよ、やべぇ感じじゃねぇか。
ナカタは戦慄を覚えた。
運転席から隊員が倒れるように出てきた。
こちらの人だかりに向かって何かのサインを出しているが、声が無いので分からない。
救命の看護師が外の異変に気付き、搬入口から出てきた。
隊員に気付き近寄る。
隊員は救急車の後部を指差した。
看護師がそちらに向かおうとすると、それを手で必死に制する。
マスゴミはカメラをまわしている。
ナカタとスズキは何となく察した。
後部に何か載せてきちまったんだと。
隊員が声を振り絞って看護師に耳打ちする。
「すまない、他にどうしていいか分からなかった」
多分そんな事言ってるなとスズキは思った。
「絶対近付くなよ」
スズキはナカタにそう言うと、正面入り口にかけ出した。
カヨコのもとへ向かったのかな。
ナカタはそれを見送り、また救急車の方を向いた。
ちょうど後部が開いた。
もう一人の隊員によってかと思ったら、そうではなかった。
腹を一メートルぐらい膨らませた年配の男と、頭が風船のように膨張した変な髪型の男が各々外に出てきた。
二人ともが制服を着用している。
二人の後ろに車内が少し覗いたが、中は真っ赤に染まっていた。
マスゴミがざわつく。
看護師が悲鳴をあげ、運転していた隊員が立ち上がれないが、看護師を庇うように彼女を後ろの方へ下がらせる。
人間としての意識があるものなのか。
ナカタは夕方見たヤマダを思い出した。
問題は目だ。
目がどうなってるか。
夕方見たあのヤマダの目の事をナカタは思った。
理性は目に出る。
ただそれが見極められる距離じゃない。
どうしたもんかとナカタは考えていた。
「腹」は隊員の方へ向かう。
「頭」はナカタとマスゴミのいる方を見ている。
「おーい!こっちだ!」
ナカタは二体ともの注意を引き付けたかった。
病院に入られたらヤバいと思って、とりあえずその為に叫びをあげた。
こっち来ちゃうじゃねぇか、バカ野郎。
俯瞰の立ち位置が脅かされるナカタの行動にマスゴミがまたざわめく。
「頭」はナカタの方を見て、そちらに進み始めた。
30メートル程の距離が徐々に縮まる。
「飯の種も、命あっての物種だね」
ふっと横にいたカメラマンに言うと、
カメラマンはカメラをそのままナカタに向けるが、ナカタは走り去っていた。
カメラマンがカメラをナカタから「頭」の方に戻すと、「頭」はカメラマンの目の前五メートルに既に来ていた。
他のカメラマンは一斉に逃げ出していた。
五人いたのが散り散りになる。
カメラはカメラマンの悲鳴と「頭」のガブリを捉え、カメラはそこで止まった。

スズキが救命の待ち合い室に駆けつけると、警官とカヨコとカヨコの学校の教師とが一緒に固まっているのを見つけた。
「お巡りさん、外のを何とかしてくれ」
と言って、合わせて
「一人じゃ危ないから、何人かで行った方が良い」
と続ける。
「救急車が連れてきたあんたたちの同僚がとんでもない事になってるぞ」
警官は怪訝な顔になる。
いきなりなんだこいつは。
「おい!」
待ち合い室に甲高い声が響く。
カネマルがスズキに乗じて叫んだ。
隣にトヨマキを連れている。
本来トヨマキは霊安室の事務所で常時待機せねばならなかったが、カネマルに無理矢理連れ出された。
「そいつが言う事は本当だ!おかしくなってんのはネダとハシモトだろ!?」
スズキにあの二人の名前が分かる訳がなかった。
「お前、あんな事してとりあえず状況が落ち着くまで大人しくしてろって言ったろ」
カネマルの同僚が呆れ気味に言う。
「うるせぇ!お前ら一緒に来い!」
カネマルはそう言って正面入り口に走って向かう。
カヨコについていた同僚も二人、カネマルの後を追う。
トヨマキも何故かカネマルに腕を掴まれたまま共に連れ出される。
なんで俺がついてかなきゃなんねんだよ。
そう思えどカネマルの力が強く、成す術がなかった。
スズキはそのままカヨコと病棟に残る。
ドンドン収拾のつかない事態になっていった。

こいつずっとついてくるじゃねぇか。
「頭」の方がナカタをひたすら追っていた。
駐車場の車を挟んで双方が睨み合う格好だった。
とんでもなく緊張していたが、正直鬼ごっこのスリルが恐怖とで心の半分を占めていた。



※上記一切は創作につきフィクションです。