中野で空席が出たので、ナカタはそこに座った。
仕事で色んな場所を巡るが、山梨には行った事がなかった。
電車で遠出か。
旅行みたいな事は殆どしてこなかったもんな。
ナカタは前の会社の社員旅行で石川県に行った事を思い返し始めた。
正直会社の行事だし、ただでさえ休みが少ない仕事なんで単なる連休として消化したかったが、そうもいかなかった。
観光なんてする人間じゃないし、同行した連中も皆男で、着いた早々パチンコを打っていた。
夜になり酒を飲みに行く事になり、金沢市内の片町という歓楽街を歩いた。
新宿の一画を思わせる賑わいで、店を選ぶのに時間がかかった。
たどり着いたのは新規に開店したスナックだった。
安く長くいられるし、ここにしようと話が進んだ。
一軒目を終えた後だったんで、入店時には軽く酔っていた。
若い女が二人席に着いた。
彼女らが発する方言が綺麗に聞こえた。
そこそこ飲んで、ホテルへ戻った。
翌日は終日自由時間だった。
取り立てて行きたい所もなかったが、レンタカーを手配していたんで、市内から適当にドライブした。
何せ野郎四人なんで面白くもなかった。
兼六園やら有名どこを踏んで、夕方からパチンコ打ってた。
勝ったらその金で飲み行こうかなんて話をしていた。
結局勝ったのは俺だけで、あとの三人は負けちまってホテルへ戻った。
俺は一人で片町におりた。
一人でそこらをうろついていたが、ちょうど前日寄ったスナックの娘から電話があり、またその店へ出向いた。
俺が店に入るのと入れかわりで店を出る連中がいた。
それで客は俺ともう一組だけだった。
混んでるとめんどくさいから、空いてる方が心地よかった。
最初に前日ついた女が来た。
愛想は良かったんで、ダラダラ話をした。
多分もう石川県には来ねぇだろうなと嘯いた。
12時過ぎに入店して、店が2時までだった。
20分経ったところで女が入れ替わった。
見た事のない女だった。
…
哀しくなってきたから、もう止めとこ。
ナカタは思考を止めた。
後日、当時連休のなかった体で改めて金沢に単身出向いて、その女に会いに行ったが、結局どうにもならなかった。
こっちから気持ちが発しても、都度そんな感じで繋がっていかねぇ。
ただ気持ちが乗れば、普段はぼんくらな俺も、たまにそうして無茶な事やるんだよなぁ。
今日みたいに。
ナカタは座りながら、対面の車窓から外を見て、少し微睡んでいた。
トレドミンの副作用に多少の眠気がある事と、薬を飲んで強張っていたのも緩和されたようだし、連日まともに眠れていないのがそれを呼び起こしているのかも知れない。
眠れるもんならありがたいけど。
高尾まではまだしばらく掛かる。
仮眠するか。
眠れるうちに。
ナカタは目を閉じた。
暗いところで、チラチラ筐体の真ん中のレールが回転している。
派手な絵柄が揃うのをズーッと狙ってる。
揃ってくれと願いがこもる。
あれ?
きたか?
きた。
揃った。
やったね。
当たったよ。
毒々しい歓喜が萎びた心に流れてくる。
今日はついてるな。
終わったら飲みにいこう。
ただ終わる前に気付いちまったけどな。
これは夢だって。
目を開けたら、まだ三鷹を過ぎだあたりだった。
全然寝られてねぇじゃねぇか。
クソみたいな夢見せやがって。
今際だってのにこんなもん見ちまうんだからな、やっぱり酷いもんだよ。
どうかしてる。
ナカタは両脇に人が座るのも意に介さず、深く溜め息をついた。
悪い想定ばかりが、やたら頭の中に浮かんでいく。
そして現実もそれとあまり差異がなく、ぼんやりと悪い方へと進んでいく気がした。
そんな事がダラダラ続いて、疲れて、やがて巻き返しも考えなくなっていった。
結局何をしたってダメなんだからと、とかくその日暮らしを続けた。
現実とまともに対峙せず、取っ掛かりを頭の中で勝手に完結させ、ダメージのないように過ごした。
でもそれって退屈なもんだから、身近で手軽なギャンブルにハマっちまった。
結局自分で引き寄せた事だった。
してこなかっただけで、実際にやってみりゃ面白い事もあったかも知れなかった。
でも分からないし、それを探す意欲もないんで、結局やらなかった。
ついてないとよく溢したが、ただ単に負けるギャンブルを続けていただけかも知れない。
ナカタはそんな事を懲りずにまた思い返していた。
「お客さん、終点ですよ」
車内の清掃をする男がナカタの肩を叩いた。
いつの間にか高尾に着いていた。
「乗り過ごしちゃったかな?」
悪意はないだろうが、男の笑顔がナカタの心を逆撫でした。
「いや、大丈夫なんで」
ナカタはそれから何にも言わず電車をおりた。
ホームに出ると、山登りに来たんだなと格好から見受けられる人間が散見していた。
妙に目立つな。
他にナカタと同じ格好はいなかった。
外は正に夏日で、すぐに汗ばんだ。
山を登るだろう連中の首回りにはタオルが巻かれていた。
あ~あ、あれ持ってくるの忘れたわ。
ナカタは乗り換えへ歩きながら、Yシャツの袖で額を拭った。
※上記一切は創作につきフィクションです。