大引退選手レヴュー、まだいきますよ。



お次はK-1史上3人目のスリータイムスチャンピオン、レミー・ボンヤスキー。



スーパーヘビー級に似合わぬ跳びながらのフライニング・ニーやフライング・ハイキック、腰が入って全体重を乗せたローキックやミドルキックを主武器にし、バンナやベルナルド、果てはボクシング元世界王者のボタなど一時期ボクシングやパンチャーに傾倒し、ひいき目になっていたK-1では珍しい蹴り技主体のハード・キッカータイプ。
参戦当時はイグナショフやアビディ、カーター・ウィリアムスやグラウベ、シュルトなどと並ぶ、K-1新世代の旗手のうちの一人であったファイター。



ホーストと同じくスリナム系の黒人オランダ人で、大学では数学を専攻し、銀行勤務の経験もある。
サッカー少年でアヤックスという有名なチームの下部組織でプレイしていたという、異色の経歴もある選手でもあることは、K-1やレミーのファンの方であれば、当然のごとくご存知かと思います。



試合をするたびに良くも悪くも波乱を呼び、評価も様々だった彼は、石井館長から谷川プロデューサーへと主導権が変わり様々な面で流動的だったK-1混迷期の、最も象徴的な選手だったのかもしれません。



そんな波乱を呼ぶフライング・ジェントルマン、レミー・ボンヤスキーの太公的ベストバウト。




対中迫剛戦('04 K-1 JAPAN沖縄大会)
新世代のフライ・ハイがK-1王者となって日本で迎える最初の試合。
その最初の対戦相手は、同じくJAPANで大波乱を呼ぶ男とされていた中迫剛。
当時、新世代のK-1王者だったマーク・ハントから生涯初のハイキックでのダウンを奪ったり、ボブ・サップのK-1ルールデヴュー戦で大乱闘劇を演じたりと、まさに波乱男でした。
レミー得意のフライング・ニーに対抗して、同じくフライング・ニーを返すと公言。
同じ蹴り技主体のレミーに対し、空手出身らしく接近戦でのパンチの打ち合いに勝機を見出そうとしていた中迫。
ガードを上げ、アップライトでつま先立ちでリズムを取る典型的なキックボクサースタイルのレミーに対し、左のボディブローを何度も当ててレミーに効かせ動きを鈍らせるなど戦前の予想以上の健闘ぶりでした。
結局、ガードを下げているところへレミーのハイキックを浴び、3R残りわずかというところで3ノックダウンのKO負け。
スタイルも体格も似ている分、戦略と個性がものをいう、名勝負だったと思います。



対フランソワ・ボタ戦('04 K-1WGP決勝戦)
第11代IBFヘビー級王者で、タイソンやホリフィールドとも対戦経験のあるリアル・ボクシング王者のボタ。
アウトボクサータイプで、タイソンみたいな前へ前へ出てくるタイプは得意とし、開幕戦ではバンナを撃破。
ピーター・アーツを負傷TKOで下し、ほぼ無傷のまま準決勝でレミーと対戦。
この年の6月くらいに行われたK-1対ボクシングの対抗戦でもこの2人は対戦。その時はローやミドルで蹴りのペースを取りつつ、組みヒザでダウンを奪ったレミーの判定勝ち。
ほぼ無傷で、レミーに対してボディブローや接近戦のパンチで積極果敢に前へ出ていくボタ。やや手数が少ないかなと思われるレミーでしたけど、本戦の第3ラウンド終了間際に放ったハイキックがボタにヒットしダウン。
そのダウンの影響なのか、判定は僅差でレミー。
延長戦が妥当かなとも思いましたが、手数こそあれど有効打や決定打がなかったことが、ボタには不運だったかなぁ。



対曙戦('04 K-1WGP開幕戦)
K-1よりもはるかに長い歴史を誇る大相撲。その第64代横綱の曙。
この前年の大みそかのサップ戦でK-1デヴューし、武蔵やリック・ルーファス、さらには韓国ソウル大会でトーナメントも経験したものの、勝ち星はまったくのゼロ。
そんな曙が、スーパーファイトで前年王者のレミーと対戦。
正直、ボディへのミドルキックやヒザ蹴り一発で終わるんじゃないかと思っていましたが、ミドルキックを出しこそすれ、あの力士特有の正しく脂肪をつけた曙のボディには効かず、もともとキック主体でパンチの荒いレミーには曙を殴ってKOすることもできず、逆にコーナーに電車道で串刺しにされてパンチを浴びる、という展開。
それでも、ローキックで有効打を作り、曙のスタミナ切れもあって、ローを効かせた瞬間に曙の側頭部へハイキック一閃。
経験や実績で差があるとはいえ、根本的な能力差もあってレミーはもう少し苦戦するかとも思ったんですが、最終的にはK-1王者としての格の違いを見せつけるKO勝ち。



対ステファン・レコ戦('06 K-1WGP決勝戦)
レミーがK-1王者になる前、'02のラスベガス大会のワンマッチで初対戦した因縁の稲妻男レコ。
その当時のレミーはまだ経験が浅く、ファイトスタイル的にも経験という意味でもベガス大会での戦い方・勝ち方にハマっていたレコが相手ということもあり、スパーリングの延長のような単調な試合展開に終始し判定負け。
レミーにとってはリベンジマッチとなるこの試合。
俺もこの決勝戦は現場へ足を運び、生観戦してきたのですがなによりもびっくりしたのがレミーの会場人気の高さ。アーツやバンナ、セフォーに次ぐくらいの声援の大きさ、多さが印象的でした。
試合開始早々、レコの蹴りがレミーの下腹部にヒットし試合が中断。ほかの試合を間にはさんだ後、再開。すると今度はレコのバックキックがまたもや下腹部にローブローで入り、苦痛に顔をゆがめ、身体もよたつくなど見るからにつらそうな様子のレミー。
接近戦のパンチで勝機を見出そうとするレコに対し、至近距離でガードのすき間をつく右パンチがヒット。ダウンを奪取。
判定はローブローによる警告やダウンを奪ったことにより、レミーが勝利。
度重なる反則に見舞われても、最後まであきらめないプロ意識と、K-1王者としての意地を見た、そんな気がする試合でした。
ちなみにこの2人、1,2年後の開幕戦でも対戦し、その時はレミーが得意の飛びヒザでレコをKO。



対アリスター・オーフレイム戦('09 横浜大会)
総合格闘技PRIDEにいた頃とは見違えるほどにビルドアップし、DREAMではミルコ・クロコップを圧倒しK-1ルールではバダ・ハリを完全KO。
総合格闘技の世界で猛威を振るい、その勢いのままK-1をも侵略しようとやってきたハイパー・マッスルサイクロン・アリスター・オーフレイム。
この史上最強の外敵を、前年度K-1王者として迎え撃つレミー。
この前の年のGP決勝戦でバダ・ハリに反則となるグラウンドパンチと踏みつけを喰らい、泥を塗られてから初めての試合。
レミー得意のヒザ蹴りを、K-1ルールでは反則すれすれの総合格闘技的ないなしや投げでさばき、ペースを乱していくアリスター。
戦前の下馬評以上というべきか、レミーはかなり苦戦しました。
しかし最終3Rに入り、一瞬空いたガードのすき間にレミーの打ち下ろし気味の右ストレートがヒット、ダウンを奪取。
効いてるそぶりはあまりなく、変わらずパンチなどでプレッシャーをかけていくアリスター。
判定は、ダウンの影響も響いてか、レミーに軍配。
表示体重も110kgまでウェートアップしていたためか、フラッシュ気味とはいえダウンを取ったレミーのパンチははたから見ている以上に効果的だったのかもしれませんね。
それと、アリスターの打撃は若干手打ち気味に見えました。あれほど体重があると、やはり体が重くてキレがあってスピーディな打撃は打てないのかもしれませんね。手数ではアリスターかもしれませんが、動きながら一発一発有効打を出し、きっちりダウンも取ったレミーの方が試合運びなどの面からみても印象がいいとジャッジが判断したのかもしれません。




以上挙げた5試合が、俺的なベストバウト。
こうやって挙げてみると、アーツやバンナ、ホーストなどのトップ選手というよりは、格下の選手との対戦での名勝負が多い気がするレミー。
逆に言えば、トップ選手から格下まで、さまざまな選手と全盛期のうちに肌を合わせることができた、稀有な選手とみることができるかもしれません。

プロデューサーが変わり、運営体制やルール、ジャッジの基準やファンの目、出場選手のメンツやそのカラーなど、あらゆるものが流動的で劇的に変化していたK-1混迷の時期に、いわば王者になるのが早すぎた感もありましたが、逆にそのことで、K-1王者レミー・ボンヤスキーとしてのキャラクターを確立していった、そんな気がします。
同じ選手とのリマッチ的な試合がたびたび組まれていたのも、ファイターとしての彼のそんなキャラクター性によるところが大きかったのかも。



パワーファイターを相手にしても、時間をじっくりとかけ、チャンスをうかがい、一発を当て込んで逆転する姿は、まさにK-1の「時空(とき)の達人」ともいえるかもしれません。



2月にクロアチア・ザグレブで行われるGLORY14でミルコ・クロコップとプロ現役生活最後の試合を行い、引退するレミー・ボンヤスキー。


K-1王者として現在進行形で成長してきた彼の現役生活の時計の針が、どんな形で止まるのでしょうか。