エビ女 | ジュニマニア

エビ女

 

むかーしむかしの事じゃった…

ある年の、母の誕生日のこと。


金欠の私は、その年のプレゼントをケーキでごまかすことに。

しかも、デパートの高級なケーキではなく、近所の不二家で

買うことにした。


母の誕生日は桃の節句である。

駐車場の無い店舗だったので、お店の前にはズラリと

路駐の車が並んでいた。

おまけに、坂のふもとに位置しており、路駐の車は

坂の上方まで続いていた。

仕方が無いので、私は、その一番上方に車を停めた。


ケチったくせに、母の喜ぶ顔が早く見たくて、

私は車を降りて、バッグを手に、下り坂を駆け出した。

 

 

その時、事件は起こった。

 

 

 

私の体は重力を失ったかのように宙を舞っていた。


こういうとき、『すべての動きがスローモーションになる』と、

話には聞いていたが、私はそれを身をもって知った。


そして次の瞬間、自分の足が、頭よりも上にあることに

気付いた。(ある意味、余裕?)


そう、私は、

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


エビ になっていた。


 

 

 

 

 

 

 






ザザザザー!

 

エビになった私は、次の瞬間、顔から着地。


バッグを離して、手を付けばよかったのに…

(しっかりとバッグを握った手は、顔の次に『グー』の形で

着地したらしい。今も残る傷跡が、それを物語っている…)


痛みよりも恥ずかしさの方が先にたち、ガバ!と飛び起きた。


しかし…

 

 

 

 

 

 

 

 

見えん。

 

 

 

 

 

 

 

 

めがねが吹っ飛んでしまったのだ。

周囲を見回しても、ド近眼の私には何もわからない。

手探りで、ようやくめがねを見つけてかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボトッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面にめがねが音を立てて落ちた。

めがねは、着地の衝撃がいかに大きかったかを物語っていた。

柄の部分が開ききっていたのだ。

もっと言うと、レンズも割れていた。


仕方が無いので、かわいそうなめがねをバッグに押し込み

私は再び走り出した。

 

 

不二家は、普段ではありえないくらい、ごった返していた。


「あら~、並ばなきゃ買えないじゃん。」


そうつぶやきながら、ジンジンする足を引きずって不二家の中へ。


店に足を踏み入れた瞬間、人だかりが横に真っ二つに分かれた。

モーゼの十戒は、こうもあろうかという見事さだ。

正面には、お店のお姉ちゃんが目を見開いて立っていた。

 

  

 

「い、いらっしゃいまへぇ!」

 

 

 

なぜか声が裏返っていた。

 

 

「え?ワタシ?」


と思ったが、みんなまだ選んでいる途中なんだ、だから

私を先にしてくれたんだと、超プラス思考することにして、

ケーキを注文した。


包んでもらっている時、私は、周囲の視線に気が付いた。

何か、奇異なものを見るような目だった。


「ん?」


そのときになって、やっと自分の無残な姿に気が付いた。


額からは血が流れ、服にはそのしずくが落ちていた。

そして、その日、私はキュロットにタイツといういでたち。

転んだ衝撃で、膝のところが破れていた。

茶色のタイツだったので、破れたところは地肌が見えて、

膝にサポーターをつけているような色合いになっていた。


まるで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バレーボール部 

 

 

 

 

 

 

だった。 ( ̄□ ̄;)

 

 

 


そうこうしているうちに、ケーキの準備が完了したので、

会計を済ませ、不二家を後にした。

後ろから、さっきのお姉ちゃんが、泣きそうな声で

 

 

 

「ありがとうございましたっ!あせる

 

 


と、言ってくれた。

その夜、彼女は悪夢にうなされたに違いない…。

 

 

 

痛む足を引きずりながら、さっき降りてきた坂をのぼり、

車にたどり着いた。

気を取り直して、さっさと帰ろうと思ったが、

 

 

 

 

 

 

見えん。

 

 

 

 

 

 

ド近眼の私は、めがねが無いと日常生活が出来ない。

したがって、めがねが無いと車の運転も出来ない。


買ったばかりのPHSで、家にSOS。

数分後、弟が血相を変えて走ってきた。


「どっ、どうしたの!?」


心配そうに、車の中を覗き込んだ次の瞬間。

 

 

 

 

 

ぷっ


 

 

 


吹き出した。


「気の毒だけど、おかしー!」


そう言いながら、大笑いしたのだ。



弟に運転してもらい、帰宅すると、母が外に出て

心配そうに待っていた。 


「ちょっと!!何があったの!?」


車に駆け寄ってきた次の瞬間。

 

 

 

 

 

ぷっ

 

 

 

母までもが吹き出した。


「ケーキ買ってきてくれたのは嬉しいけど、

うたっぴちゃんが怪我しない方が良かったわ~。」


そう言いながら、やはり大笑い。



弟にかかえられて、家に入った。

気分は負傷兵。


リビングには、リボンのかかった箱が置かれていた。

その包みは、さっき私が命がけで買ってきたものと

同じ模様。


その正体は…

 

 

 

 

 

 


 


不二家のケーキ by弟

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

おあとがよろしいようで。

チャンチャカチャンチャカ゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆