❏❏❏ 回顧録:2007年9月19日 東京・自宅

 

ステロイド療法75日目、3回目の手術から42日目

 

昨日、今日とお取引先のかたと夕食を一緒した。

 

3回目の手術から退院して1日も早く社会に戻りたい私は、まずお客さんとのディナーを入れたのだ。

 

会社で仕事をする体力はないが、お食事ならできる。

 

 

お会いしたのは別々の会社の人だが、それぞれ仕事では長いお付き合いの人達で気軽に話せる仲だ。

 

昨日の方は、私と同じ年で地方出身という点も私と同じだ。

 

彼は、私ががんを発症したと知った時から心配されていた。

 

 

ホテルにあるお寿司屋さんのカウンターで2人食べたが、彼は私を横から見て、想像していたほど痩せていなくてほっとしたといった。

 

ただ、明らかに心配していた。

 

なぜなら、私が話すスピードが何時にも増して遅いからだ。

 

 

私はもともと話すのが遅い。

 

昔からコンプレックスに感じているのだが、手術後は、特別に遅かった。

 

 

体力が落ちると、話す筋肉も衰えるのだろう。

 

しかも、がん治療でケモブレインになり、頭がバカになっていた。

 

 

※ケモブレイン:ケモとは抗がん剤治療を意味し、ブレインは脳だ。抗がん剤治療の副作用として語られることがある。患者の中には「少しバカになったと感じる」とい人もいる。私もそうだった。すぐに人の名前が出てこないし、身に着けた英語は、かなり忘れていた。

 

※個人的には、これは抗がん剤の副作用といよりも、長期入院による影響のほうが大きいのではと感じた。入院して、おじいちゃんがぼけて帰ってきたということをよく聞くが、入院中は、本当に頭を使わない。筋力も落ちるが、脳力も落ちるのではないかと思うのだ。

 

そんなこんなで、私は2テンポ、3テンポ遅れて会話していた。

 

それが彼を不安にさせる。

 

私の中では、頭は動いているのに、言葉にして出せない。

 

それがもどかしかった。

 

 

翌日は、私より少し若い方で、同様に長いお付き合いのかたと中華料理を食べた。

 

彼も私が、よたよたしていることを心配していた。

 

 

ただ、前日と違い、私の話すスピードが少し速くなっていた。

 

わずかな改善だが、自分の中のもどかしさが、1gくらい軽くなった。

 

「もしかしたら、こうしてお客さんと食事することで頭の回復につながるかもしれない」

 

いつか会社に戻った時に、自分が使い物になるのか心配していたが、わずかな光を感じた時だった。