❏❏❏ 回顧録:2007年8月8日 東京・慈恵医大病院

 

ステロイド療法33日目

 

がん2度目の手術(後腹膜リンパ節郭清手術)の日。

 

私は、強烈な痛みで目が覚めた。

 

恐らく看護師が、私の鼻の近くに刺激臭の強い薬品のついた脱脂綿を嗅がせたのだろう。

 

医療現場では麻酔で眠っている患者を起こす際に、そういったことをする。

 

私は何が起きたのか?よく解らなかった。

 

視界がぼやけている。

 

焦点が合わないのだ。

 

 

やがて、看護師が私の口に透明のプラスチックのマスクをさせた。

 

酸素マスクだ。

 

ここはどこだ?

 

だんだん頭が働いてくる。

 

「大久保さん、聞こえたら、返事してください」

 

何か言おうとするが、声が出せない。

 

なんと、口の中に太い管が入っている。

 

何だこれは??

 

そうだ、私はがんの手術を受けていたのだ。

 

後腹膜リンパ節郭清手術だ。

 

看護師は「大丈夫ですよ、聞こえてますね」そう返した。

 

 

しかし、うなずくこともままならない。

 

何もできないのだ。

 

こんな体になった自分にがくぜんとした。

 

看護師は私の目の動きで、聞こえていると確認した。

 

何も受け答えできない患者に慣れているかのようだった。

 

多分ここは、オペ室の控室だ。

 

以前、木村先生から、患者は手術が終わると一旦そこに移されると聞いた。

 

 

その時だ。

 

(恥ずかしい話だが)、肛門から大量の液体が出た。

 

恐らく大便ではない。

 

手術前に、大腸の中は空にしておいたし、胃の中も空だったから、体液のような水分が出たのだろう。

 

私は、それを看護師に伝えようともがいた。

 

そうしたら、今度は、胃から結構な液体が口に戻ってきた。

 

口と喉がふさがれて、息が出来ない。

 

言葉も発せない中、まさか、このまま死んでしまうのではないかと思った。

 

看護師も、医師も、私の異変に気が付いてくれない。

 

 

まずい。

 

命が危ない。

 

 

そうしたら、私のそばにあった医療機器が、凄いサイレンを鳴らした。

 

まるで緊急地震速報のような、キュウキュウキュウキュウというけたたましい音だ。

 

 

看護師たちは、驚いて私を見て、すぐにホースのようなものを口に入れ込み、詰まったものを吸い出した。

 

私は、その時点で再び、気を失った。

 

何も覚えていない。

 

気絶したのだろう。