❏❏❏ 回顧録:2007年8月7日 東京・慈恵医大病院

 

ステロイド療法32日目

 

がん2度目の手術(後腹膜リンパ節郭清手術)の前日。

 

午後、マラソン友達の鈴木さんが、病室に顔を出してくれた。

 

ヒマワリの花束バスケットをプレゼントしてくれた。

 

彼は、明日が手術の日であると知っていた。

 

私はこれまで、友人たちからスケジュールを聞かれることがあった。

 

抗がん剤治療のクールと投薬予定日、入院予定日、手術の予定日、退院予定日、

 

がん患者には様々な予定日がある。

 

普段、会社に行き仕事をしていると、あっという間に毎日が過ぎてゆき、患者のスケジュールに合わせて病院を訪問するなんてなかなかできない。

 

恐らく、鈴木さんは、パソコンのスケジュール管理システムに、慈恵医大病院に行く日を入れてあったのだろう。

 

短い時間だったが、彼と何でもない話を沢山した。

 

いま患者支援活動をしているので、よく質問される。

 

「がん患者さんとは、どういう話しをしてはいけないのですか?がん患者さんは、どういう話しをしてほしいものですか?」

 

私は答えに苦慮する。

 

気持ちは良く解る。

 

ただこんな質問をすること自体がナンセンスだと思うのだ。

 

まるで、がん患者を特別扱いして、腫れ物にでも触るかのような質問だ。

 

私がいつも返すのは、

 

「普通に接してください。何でもない会話で良いんです。がんにならなければ、普通に話していただろう何でもない会話が一番いいです」

 

この日、私の病室に来てくれた鈴木さんは、まさになんでもない会話に徹していた。

 

それが有難かった。

 

 

夕方、讃岐先生が、病室に来た。

 

いよいよ点滴のルートを取るという。

 

当時、ビックリしたのは点滴の注射が、まるで巨大な拳銃みたいな形をしていたことだ。

 

これについては以前も書いたが、

 

点滴針がビニールなのだ。

 

金属の針ではない。

 

私が小学生くらいの頃は、まだ金属の針で、それが血管の中にあると少し腕を動かすだけで血管の中の針先が血管をチクチクと中から突くので痛くて嫌だった。

 

しかし、讃岐先生が使う巨大な拳銃みたいのは、腕の血管に拳銃で針を刺すと、なんと引き金みたいのをひくと中にあった、ビニール製の注射針だけが血管の中に残る。

 

柔らかいビニールだから、腕を動かしても、痛くないのだ。

 

もしかしたら今は、巨大拳銃よりも素晴らしいものが出来ているかもしれないが、当時、私にとっては驚きだった。

 

讃岐先生は、例によってその拳銃で、私の腕に点滴のルートをつくった。