❏❏❏ 回顧録:2007年8月4日 東京・皇居
ステロイド療法28日目
合成副腎皮質ホルモン剤・プレドニンの量は、30㎎から20㎎へと変わった。
しかし、息苦しさは変わらないし、体調もいまいちな状況が続いている。
この治療は、手ごたえがない。
著しく改善するわけでもないし、何か変化を感じ取れるものではない。
もし、感じることができるとしたら、それは悪化した時だ。
この治療は、ややこしい。
脳がこの薬の量をインプットして体内でバランスさせているので、急に薬をやめると反動で離脱症状のようなものが出る。
つまり、間質性肺炎が急激に悪化するリスクがあるのだ。
だから、常に薬を飲んだか?飲み忘れていないか?気を付けなくてはならず、ストレスがたまる。
この日は姪が我が家に来た。
娘と息子と一緒にNHKの番組「天才テレビ君」のコンサートに行くためだ。
私ががん治療で何も子供たちにしてあげられないので、4枚のチケットのうち、私の分を姪に渡し、妻が姪よ子供たちと一緒に遊びに行った。
同世代の姪の存在は大きく、とてもありがたい。
私は、一人になった。
だから、皇居に行った。
手術前に、入院前に、ランナーを観たかったのだ。
8月4日、真夏のど真ん中の猛暑日の日に、全身長袖長ズボンのジャージを着て、マスクをして、帽子をかぶった私が皇居のベンチに向かった。
山手線の中でも目立つ変な人で、有楽町の駅では、手するにつかまりながらゆっくり階段を下りた。
そして、ふらふらと皇居に行く。
惨めだった。
ほんの半年前なら、アスファルトの路面を跳ねるように皇居に向かって走っていた。
しかし、いまは、ちょっと押されたら転んでしまいそうなひとだ。
皇居のベンチに座った。
みんな走っていた。
汗びっしょりになって、ランパン、ランニングで、サングラスをして帽子をかぶり、たったったった、目の前を走っていく。
女性ランナーもいる。
ランパンにTシャツで、駆けていく。
赤いウェア、蛍光の黄色のウェア、みんなカラフルなかっこいい恰好をして目の前をかけていく。
数週間前もこの場所に来て、エネルギーが欲しくて、ランナー達を見ていたが、
この日も、涙で鼻水がじゅるじゅるになった。
「みんな、本当にカッコいい。果たして、おれは、またここを走れるようになるのだろうか、、、」
そんなことは、とても考えられない「ハゲ頭でジャージ姿のがん患者」の自分。
フルマラソンとか、日常的に走っていたけど、いまは、5mすらも走れない身体だ。
息苦しく、いつも肩で息をしている患者。
「なんで、こんなことになっちゃったんだろう、、」
強く生きなくてはだめだ、と思いつつも、内心は臆病でネガティブなことばかり考えては、恐れているがん患者。
ガラ系の携帯電話でランナーの写真を撮るとするが、みんな速くて、
とろい自分は、ボタンもうまく押せない。。
エネルギーをもらえるのだが、現実とあまりにかけ離れていて、どうやって心を整理していいのかわからなくなった。
ポケットティッシュをすべて使い終わり、皇居を後にした。
手術入院まで、もう1日ある。
明日もここに来よう。
何かをつかんで、入院するんだ、、そんな気持ちで、皇居を後にした。