❏❏❏ 回顧録:2007年6月29日 東京・癌研有明病院

 

私は、間質性肺炎を発症していた。

 

抗がん剤・ブレオマイシンの合併症だと説明された。

 

咳が出るし、息苦しい。

 

だが、この日は、最後のセカンドオピニオンを受けるために癌研有明病院に行く予定の日だった。

 

がんの専門病院には2種類ある。

 

ひとつは「がんセンター」と言われる、国立、県立の公立の病院。

 

そしてもう一つは、私立の「癌研有明病院」。

 

お台場にある。

 

私と妻は、車でお台場まで行った。

 

(2007年当時は)新しくて大きな病院だった。

 

正直、驚いた。

 

受付に行って、セカンドオピニオンを受けに来たと申し出ると、ポケベルみたいなものを渡された。

 

「患者さんの受診番号が、病院にあるモニターに出たら、泌尿器科に行ってください。それまではどこにいてもいいですよ」

 

そう言われて驚いた。

 

これまで大きな病院では、いつ呼び出されるか?解らないから、1時間、2時間と、泌尿器科のベンチで座ったきりで、うんざりだった。

 

だが、ここは違う。

 

コンビニ行っていてもいいし、カフェに行っていてもいいという。

 

私と妻は、患者の少ないソファーでくつろいでいた。

 

私の番号がモニターに現れたので、泌尿器科まで行くと、いまから3番目だと表示されていた。

 

親切なシステムだ。

 

 

順番が来て呼ばれたので、部屋に入ると、比較的若い男性のお医者さんがいた。

 

私と同じ40代だと思う。(当時、私は42歳)

 

例によって、私は自論を語った。

 

❏ アメリカの学会論文では、8割の患者に「既に活動性のがんが存在しなかった」こと。

 

❏ にもかかわらず、全員が外科手術を受けるのは、納得いかないこと。

 

❏ なぜなら、危険が伴う手術だし、後遺症がのこるからだ。

 

❏ そして、例え、2割の患者、つまり、手術で活動性のがん細胞が見つかった患者だとしても、結局、抗がん剤治療を開始するのであれば、経過観察をして、再発したら治療するのと同じではないか、という考え。

 

 

彼は、表情を変えずにしっかり聞いてくれた。

 

不満げでもないし、困ってもいない。

 

「良く解りました。でも、私は、大久保さんは手術を受けるべきだと思います。がん治療を終えた後、極度の不安に陥る可能性があります。手術をして、活動性のがんが存在しなかったと解れば、その後5年間を安心して過ごせます。それは、患者にとって大きいことです」

 

そう来るのか、、と思った。

 

確かに彼の言っていることは正しい。

 

私は今でもそうだが、がん治療中は闘っている感じがして良かった。

 

だが、こうして治療を受けていないと、「もしかして、がんがまだ身体の中にあり、増えているのではないか、、?」などと不安に怯えることがある。

 

 

私は、話しを変えた。

 

かねてから聞きたかったことを、聞いてみたのだ。

 

それは、外科手術と言ったところで、病院によって差が出るのかどうか?を知りたかったのだ。

 

 

かれは、直ぐに答えてくれた。

 

「がんの外科手術に、大抵の場合、医者による、上手い下手なんて有りませんよ」

 

はっきりそう言った。

 

私が良く解らないというと、かれは続けざまにこういった。

 

「脳外科とか心臓外科の一部の手術では、手先の器用さがとても大事な場合がありますが、がんはそうじゃないです。よくテレビで、神の手、とかいう番組ありますが、あれは大きな誤解です。一般的な手術では、腕のいい医者とか、そういうのはありませんよ。だいたい、腕のいい医者って、何を基準にいうんですか?」

 

確かにそうだ。

 

手術が、上手い、下手、って、何のことなのだろう?質問している私が解らなくなった。

 

「例えば、同じ後腹膜リンパ節郭清手術でも、A病院では5時間、B病院では10時間かかったら、A病院が優秀っていうんですか?」

 

なるほど、そういうことか、、といぶかしげに聞いていると、

 

「違いますよ、大久保さん。手術の時間の長い、短いは、医者の腕前の差ではなくて、患者のお腹の中の違いによるんです。患者と言っても、人それぞれ、お腹の中が違っていて、ある人は癒着がきつくてオペに時間がかかる、ある人は、癒着が殆どないからサクサクすすむとか、切ってみないと解らないのです。お腹の中が手術しにくいか、しやすいか、患者に差があるので、手術時間に差が出るのです。医者の腕じゃないですよ」

 

はっきりそう言った。

 

考えてもみなかった。

 

患者のお腹の中が、ひとそれぞれ違っていて、手術時間は患者の違いによるものだなんて、、

 

もちろん、真実は私には解らない。

 

だが、彼の説明には納得できた。

 

そのうえで、医者の学会が決めるガイドラインは、色んな医者たちが、長年の経験から考えて、みんなで相談して、それが一番いいと取り決めているのだから、、と言っていた。

 

私は礼を言って、診察室を出た。

 

この病院の医師も、本気で説明してくれた。

 

生意気な患者の私に、忍耐強く説明してくれた、それに感謝した。

 

 

部屋を出ると、また咳が出始めた。

 

1日でも早く、間質性肺炎の治療を始めないとマズい、そう感じた。