❏❏❏ 回顧録:2007年5月18日 東京・慈恵医大病院

 

第2クール18日目(Day-18)

 

午前10時、CCR検査、肺拡散能検査があった。

 

肺拡散能検査は大事だ。

 

なぜなら、抗がん剤治療の第1クールで検査結果が悪かったからだ。

 

肺に間質性肺炎の予兆とも思われる、炎症の影が映っていた。

 

そして、第1クールでは、肺の能力(肺活量等)が20%近く減少していた。

 

しかも、最も大事な「肺が酸素を拡散して、血液中に酸素を取り込む能力」が落ちていた。

 

午前11時、今度は造影剤を使ってのCT検査が行われた。

 

※   CTとは、コンピュータートモグラフィーの略で、身体を輪切りにして撮るレントゲン検査機と考えて貰っていい。輪切りにするから情報量が多く、精度が高い。

 

そして、その撮影をする際に「造影剤」を使うという。

 

つまり、がんを、はっきり映すための薬だ。

 

ただ、造影剤アレルギーとか、副作用が出る場合がある。

 

だから、造影剤を使っての撮影前に、例によって「インフォームドコンセント」を取られた。

 

※インフォームドコンセントとは、医師が効果とリスクを説明して、患者が納得してサインする、いわゆる同意書だ。

 

またこれか、、

 

正直、病院側がいつも行う「インフォームドコンセント」には辟易していた。

 

別に、私はお医者さんを訴えるような患者じゃないし、サインしてもしなくても、リスクが減るわけじゃないでしょ、そんな投げやりな想いだった。

 

ただ、造影剤検査は、受けてみると想像以上に怖かった。

 

私は、検査技師に言われる通り、造影剤を打つ点滴針を腕につけてCT撮影機の中で横になった。

 

すると、検査技師は、その点滴針の反対側を機械の一部に繋いだ。

 

よく見ると、シリンダが横につけてあり、液体が入っていた。

 

「あの液体が、造影剤か、、」

 

そんなことを思って、ドーム状のCT検査機器の中で横になっていると、検査技師は、自分の部屋に戻り、私一人が検査室に取り残された。

 

技師は、マイクで話しかけ、遠隔で操作する。

 

だが、私からは彼を見ることができない。

 

スピーカーから聞こえる彼の声だけが頼りだ。

 

「準備は良いでしょうか?始めて良ければ、手を振ってください」

 

わたしは、小さく手を振った。

 

すると、ういぃぃん、という音とともに、

 

シリンダが動き出し、中の液体が、腕の血管に向かってきた。

 

ピストンは、電気仕掛けで、どんどん押し上げ、液体が私の身体の中に自動的に送り込まれている。

 

怖かった。

 

その時だ、

 

かぁー

 

身体が火照るように熱くなってゆく。

 

そして、その熱源が身体の中をまるで動いているような感覚になる。

 

と同時に、びゅんびゅんびゅんと唸り音が聞こえ始める。

 

X線放射器がドーナツ状のレールを回り出し、私の身体がドームの中に押し込まれていく音だ。

 

怖い、

 

誰もいない小部屋で、機械が私の身体に液体を押し入れて、ベッドがスライドしている。

 

「何か事故が起こったら、どうしよう、、」

 

ただただ、怖かった。