❏❏❏ 回顧録:2007年5月12日 東京・自宅
第2クール12日目(Day-12)
外泊の日が続いている。
ただ、毎朝、慈恵医大病院に妻が送ってくれる車で行き、白血球数を増やす注射を受けている。
病院の外来窓口に行くのではなく、入院病棟に行き、ナースステーションか、病室で注射を打ってもらうのだ。
なんともへんてこだ。
入院しているはずの患者が、病室にはいなくて、通院しているかのように、毎日、病棟へ行く。
そんな不思議な生活が続いていた。
この日も元気度85点。
病院を出て、妻の実家の焼肉屋さんに向かった。
焼肉ご飯が美味しい。
食欲が戻ると、こんなにも素直に美味しく食べられるかと驚く。
そのあと、100円ショップに行き、はぎれを買った。
なんと、6歳の息子がスパイダーマンに凝っていて、自分でスパイダーマンのマスクを作るのだという。
その工作道具のはぎれだ。
彼が慣れない手つきで、針と糸を操り、不格好なマスクを作ってる。
それを、隣で見ていると、まるでがん発症前の自分に戻ったみたいだ。
休日に、子供と一緒に工作をして、スパーヒーローごっこに付き合う。
いつもやられて(あまり言いたくないが)死ぬのは私の役だった。
そこまで振り返り、「死」という言葉に怯えた。
何でもない。
単なる、映画の世界の、おふざけでも、死ぬという言葉に恐怖した。
縁起でもない。
息子は、急に神妙になった私に戸惑っていた。