❏❏❏ 回顧録:2007年4月28日 東京・慈恵医大病院
Day-19(19日目)
ついに髪の毛が抜けてきた。
抗がん剤の副作用だ。
怖いくらいにごっそり抜けていく。
恥ずかしい話だが、陰毛は、いち早く抜け出していた。
そのうち髪の毛も抜けるだろうと思っていたが、シャワーを浴びると、排水溝が髪の毛で詰まってしまうほどだ。
医療用ベッドの上で横になって寝ていると、起きたとき、枕に髪の毛の塊が残っている。
ごそっ、ごそっ、自分で引っ張ってみた。
普通なら、頭皮が引っ張られる感じがして、つんつんと痛い。
しかし、抗がん剤治療中は違った。
引っ張ると、力なく、髪の毛が束で抜ける。
泣けてきた。
惨めなのだ。
そういえば、この頃から、眉毛も、まつげも、鼻毛も、全部抜け始めた。
脇毛も、すね毛も、すべて抜け始めた。
不思議な感覚だった。
抗がん剤は、身体からどんどん抜けて体調は改善していく。
元気度が85点まで戻ってきているのとは裏腹に、髪の毛が死んでいく。
見舞客に合うのがすこし憂鬱になる。
驚くに決まっている。
この日も会社の部下とお客さんが、お見舞いに来てくれることになっていた。
正面を向いて、相手に頭を見られるのが嫌だった。