❏❏❏ 回顧録:2007年3月22日 東京・ビジネスホテル

 

ホテルは退屈だった。

小さなビジネスホテルで、しかも狭いシングルの部屋。

 

その中に、脚を骨折して松葉杖の、がん転移の患者が一人いる。

 

とても心細かった。

 

食事を買うために、近くのコンビニエンスストアに行くのも大変なのだ。

 

松葉づえで、38℃台の発熱。

ただ耐えるしかなかった。

 

家族のインフルエンザからの避難場所だから。

 

退屈でボーとしていると、ろくなことを考えない。

 

「抗癌剤治療が1年かかったら、どうしよう」とか、

「会社をクビになったら、どうしよう」とか。

 

ろくなことを考えない。

 

気持ちを紛らわす為に、アームストロング選手の本を読んでいた。

 

本には、転移癌の告知を受け、激しく動揺する心情が生々しく描かれている。

 

第一章に「乳首を触れるとひどく痛かった」とある。

 

「あぁ、そうなのか。自分の乳首も、コリコリしたものがあって痛いけど、これは転移した癌なんだ。同じだ」

 

今頃になって転移を納得しても仕方が無いが、ランスも同じ症状だったことを知り少し安心する。

 

ホテルで3日目のこと。

良いニュースが届いた。

 

娘のインフルエンザが、快方したとの連絡だった。

 

早速チェックアウトし自宅に戻った。

 

とても嬉しいのだが、熱を測ると39度もある。

 

「なんだよ、また、これだよ、、」

 

ちょっと動き回ると、グッと熱が上がる。

自宅に着くなり、荷物をそのままにてベッドで横になった。

消耗していたが、10日ぶりの自宅のベッドはとても安心した。