❏❏❏ 回顧録:2007年3月20日 東京・慈恵医大病院

 

 

「大久保さん、今日の夕方5時に、カンファレンスをしましょう。その際には、ご家族もご一緒にお願いします」

 

カンファレンスだって、、家族も一緒に、、

 

極度の精神ストレスで、ただただ怯えていた。

 

教授のご一行が私の病室を出てから、何をしていたのか記憶がない。

衝撃的だった。

 

手は震えるし、記憶が飛んでいる。。

 

恐らく妻に電話して、今日は夕方医師から何か説明がるから、早く帰らず、一緒にいて欲しい、そんなことを言ったはずだ。

 

当時の我が家は、子供たちがまだ9歳6歳と幼いから大変だった。

 

子供だけ家に残して、妻だけ病院に遅くまでいるなんて有り得ない。

 

妻も、ただ事ではないと感じたはずだ。

 

お昼は食べたはずだ。

病院食だけど、いや、もしかしたらこの時は食べる事なんて出来なかったのかもしれない。

 

ただ、ノートには、夕方、木村先生に質問するべき内容をふるえる字で書いてある。

そして、自分が気がかりに思っていることも書き止めてある。

 

n   両乳首に、硬いゴリゴリがあり、それが益々大きくなってきていること

n   ここ二日程、何となく腰が重く、直感的に、嫌な痛みだと感じていること

n   体温が、なかなか下がらないこと

 

教授回診が終わってから、既に7時間が経っていた。予定通り、これから説明を受ける。

 

私と妻は病室に待機していた。

子供たちもいた。

 

夫婦お互い口数が少ない。

 

こんな辛い時間は、今まで経験した事が無い。

 

暫くして看護師が来て、「カンファレンス室にお越しください」と言う。

 

部屋に入ると、木村先生がいた。

 

壁には、白黒のレントゲン写真が10枚程、貼られている。

 

見慣れた肺のレントゲン画像とは違い、大きな丸の中に、無数の中・小の丸が写し出されている。

 

見たこともない写真ばかりだ。

 

壁の後にある蛍光灯で投影され、ピカーとはっきり見える。

 

木村先生は、神妙な面持ちで切り出した。

 

「大久保さんの癌は、腹部、肺、首にまで、転移しています」

「最も進行していて、最終ステージのIII-Bです」

 

がんが全身に転移していることを、あまりにも呆気なく伝えられた。

 

本当の恐怖の始まりだった。