❏❏❏ 回顧録:2007年3月16日 東京・慈恵医大病院

 

この日、午後2時に、手術室に入る予定だ。

それまで、何とも暇である。

 

テレビを見て過ごそうとするが、時間のつぶし方が解らない。

癌(がん)手術当日の要領なんて解らない。

 

手術前の時間は、患者にとって落ち着かいものだ。

 

じっとしているのが好きではない性分なので、空いている時間に「売店に行く」とか、「病院内を散策する」とかしたいのだが、時折先生とか看護師が病室に来る。

 

不在は良くないという気がしていた。

 

間もなくして、看護師が来た。

 

朝の人とは違う人だ。

 

入ってきた看護師は、グリセリン浣腸を持ってきた。

 

手術前に腸内のものを全て出しておかねばならない。

 

しかし、看護師にそんな事をされるのは、何とも気恥かしいし私は嫌だった。

 

だから、「自分でやっても良いですか」そうと尋ねると

 

「じゃ、やってみてください。そう言われる患者さん、結構いるんですよ」

 

それから、四苦八苦して、何とかやり遂げた所に妻が病室に来た。

 

事の次第を伝えると、

 

「待っていてくれたら、私がやってあげたのに。私でも嫌かな」と笑っていた。

 

 

そして、間もなくして、母が長野から上京してきた。

 

何とも、「しんみりした顔」で病室に入ってきた。

 

3人で病室の中、妻と母が色々話していたが、内容はよく覚えていない。

 

私は、ただ、黙って、時間が過ぎるのを待っていた。