❏❏❏ 回顧録:2007年3月13日 東京・慈恵医大病院

 

木村先生曰く

「手術をすると、一時的にでも体力は落ちるし、その後のゆっくりとした回復を考えたら、無理して直ぐに復職しないほうが良いです」

 

浅はかな私は、通常1~2カ月なら、自分は2週間で復職して見せるなどと息巻いていた。

 

更に、木村先生は続ける。

 

「精巣腫瘍の患者さん達に、お勧めするのが、転移を予防する為にも、1クールの抗癌剤化学療法です。大久保さんもやられても良いかもしれません。」

 

一瞬、耳を疑った。

 

抗癌剤化学療法?

なんだそれ?

 

もちろん、抗がん剤治療について、全く知らないわけではなかった。

劇薬ともいえる薬を身体の中に入れて、髪の毛さえ抜け落ちる治療法。

 

ただ、そんな治療の対象に、まさか自分がなるなんて思っていない。

 

ただでさえ、1~2カ月も仕事復帰までかかると言われているのに、まだ他の治療を受けるなど、「まっぴらご免だ!」と即座に反応してしまう。

 

聞くと1クールが21日間、入院して行うといもの。

 

そうしたら、更に1カ月復帰が遅れる。

合計4カ月以上も会社を離れることになる。

それは、当時の私には到底受け入れられないものであった。

 

私のように休職期間ばかりが気になり、「しっかりとした治療」を優先できない患者は、少なくないだろう。

 

特に働き盛りの癌患者には。

 

初めて聞く「抗癌剤化学療法」のことは、取り敢えず横に置いた。

 

「まず、明々後日の手術だ」

 

そう思い、木村先生の部屋をでた。

 

熱は、相変わらず38℃を超えていた。

 

※インフォームドコンセントにサインすると、いよいよ手術だと、緊張感が高まった。