❏❏❏ 回顧録:2007年3月13日 東京・慈恵医大病院

 

2007年3月13日、東京。

木村先生の外来のある日だ。

 

「何なんだろう」

ここ5日間で3回も病院に行っている。

 

それくら「医師が私と言う患者を診なくてはならない状況」なのである。

 

「いっそのこと入院を延長させれば良かった」

 

などとうそぶくが、やはり家に帰りたかった。

 

解熱剤ロキソニンを一日三回服用しているので、飲めば熱は下がり、薬の効き目が切れる頃は、39℃以上にもなる。

 

とんでもない状況が続いていた。

 

慈恵医大病院・泌尿器科の待合室

 

「大久保さん、お入りください」

 

名前が呼ばれ、妻と一緒に診察室に入る。

木村先生の表情は相変わらず硬い。

 

がん患者は、医師の動作・表情ひとつで、心が揺さぶられる。

 

木村先生は、改めて私に癌(がん)の疑いがある事を伝え、手術による摘出がベストの選択であると伝えた。

私が、まだ、オペに前向きではないのではと疑っている雰囲気だった。 

 

彼はさらに続ける。

 

手術による摘出は泌尿器科医師たちの総意であり、個人的な判断ではない事も伝えてくれた。

 

この病院のような規模の大きい大学病院では、教授を含め医師達が、毎日会議をして意思決定をするのだという。

 

私の場合、データがそろったのが週末だったので、週明けに先生達が集まり、

 

・大久保さんという新しい患者の存在

・癌の疑い

・手術の予定

 

以上3つについてコンセンサス(共通認識)をとっていた。

 

そして、木村先生は、私と妻に手術について説明を始めた。

 

彼は、机の上に「手術説明同意書」なるものを広げ、書いてゆく。

 

1. 現在の診断名と病状:   右精巣腫瘍

2. 予定している手術:   右高位精巣摘除手術

3. 予想される合併症や偶発的な危険性:    出血、感染症、麻酔による影響

4. 予定している手術により期待される効果:   治癒、癌の診断

5. 手術を受けなかった場合の予想される症状の推移:   がん診断の遅れ

そして、人体の図を描いて、「体のどこにメスを入れるのか」、「どうやって病巣を摘出するのか」、「体の構造はどうなっているのか」、を説明してくれた。そして、最後に私がサイン(署名)する。

 

その上段にはこうある。

 

「私は、現在の病状および手術の必要性とその内容、これに伴う危険性について十分な説明を受け、理解しましたので、手術を受けることに、同意します。」

 

このインフォームド・コンセントは、少し前に、整形外科の骨折手術の際にもサインしたので、どういう趣旨のものか、解っていた。

 

なので、さっさとサインした。

 

ただ、私が、それより知りたいのは、手術のことではなかった。

 

※精巣がん手術、1回目の手術説明同意書。木村先生は、私という患者に丁寧に説明していった。