❏❏❏ 回顧録:2007年3月9日 東京 慈恵医大病院
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この日は、私は「がん」を伝えられ、混乱の極みだった。
一方、1カ月ほど入院していた足首の骨折は、この日が退院の日だった。
本来なら、めでたい日のはずだが、最悪の気分だった。
退院は、それなりに忙しい。
退院手続き、持ち込んでいた荷物の退去、外来での診察、会計、やることだらけだ。
外来に行き、整形外科の油井先生に右足首の骨折リハビリが順調である旨、伝えた。
やはり、油井先生も、私の具合が一番の心配だった。
「それで、泌尿器科の先生は、なんて言われましたの?」
「精巣腫瘍の疑いがあるそうで、来週、摘出手術を予定されています」
やはり、そうかといった表情で、油井先生は、私の報告をうなずきながら聞いていた。
自分が治療してきた患者が、折角、回復して退院できるまでになったのに、新たな病気と闘う事を知らされたわけだ。
しかも、足首の骨折とは違い、命の危険のある病気、がん。
無念のようだった。
油井先生とも、明日外来で診察して頂く予約を入れ、その場を去った。
正直、少しホッとしている自分がいた。
ついさっきまで、何もかもが心細かったので、ずっと診て頂いている整形外科の油井先生に会えるのは、孤独感からの救いだった。
患者は、それまでと違う先生に担当されると、不安になる。
まるで、中学生が学年が変わり、担任が替わった時のような不安感である。
今日、整形外科を退院するのに、全然、退院の雰囲気ではない。
幸せ感がないのだから。
そして、今日一日あった事を、未だ何も知らない妻に説明しなくてはならない。
38℃以上の熱があるのに、しんどい事ばかりだ。
泣きたいくらい辛いのに、涙すら出てこない辛さ。
頭痛なのか? 頭の中で、何かが崩れていくような、ゴシャゴシャっとした騒音がずっとしていた。