❏❏❏ 回顧録:2007年3月9日 東京 慈恵医大病院

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翌朝、どんよりした気持ちで、目覚めた。

昨晩、あの発見から全然寝付けなかった。

 

「睾丸の大きさが、左右で全く違う」

 

浅い眠りの中で、ずっと考えていた。

 

「大変な病気だったら、どうしよう、、」

 

こんな気持ちで、ぐっすり寝れるはずもない。

目覚めてから暫く、睾丸の状態を確認する勇気がなかった。

 

何とも恐ろしくてたまらないのだ。

まず体温を測る。

38度4分。

やはり熱は下がっていない。

 

「なんなんだ、ちくしょう。未だ、熱がある」と苛立つ。

 

ここ数日は、こんな毎日が続いていた。

 

そして、勇気を出して触診をした。

 

明らかに、右と左で大きさが異なる。

固さも全く違う。

片方は、有機物ではないように硬い。

まるで小石のようだ。

 

息をするのが億劫なほど、心が窮屈になっている。

 

そして、午前の回診の時間。

整形外科医の若い先生と看護師が私の病室に来た。

いや、来てくれた。

 

当り前のように血圧を測り、体温を記帳し、今日のスケジュールを言われる。

この時点では、私は、まだ整形外科の患者なのである。

 

「先生、お話しがあるのですが。看護師さんは、病室から出て頂けませんか」

 

怪訝な顔わした医師から、私は視線をそらした。

そして、彼女が部屋を出ていったあと、震えそうな声で言った。

 

「先生、睾丸の大きさが左右で全然違います。尿チューブでバイ菌でも入ったのでしょうか?」

 

とっさに先生の顔色が変わり、詳しく色々聞かれた。

 

どういう訳か、それからの記憶がない。

 

覚えているのは、整形外科所属の先生たちが、何人も頻繁に入れ替わり私の病室に来たことだ。

そして、どの医師も「いつからそうなっていたのか?」と真剣な面持ちで質問されたことだ。

 

ナースステーションもバタバタしている。

 

そして私は、1時間後に泌尿器科の外来に最優先で行くことを伝えられた。

泌尿器という響きは、何となく恥ずかしい。

 

だが今は、恥ずかしいよりも、恐ろしくて恐ろしくて、たまらなかった。

 

(入院中に8歳の娘が書いてくれた私の絵。この頃は、まだ元気いっぱいのパパが描かれていた)