❏❏❏ 回顧録:2007年2月11日 東京・慈恵医大病院
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「えっー、この足にドリルで穴あけて、針金で引っ張るって言うんですか?」
「そうです」
衝撃的な説明で、開いた口がふさがらなかった。
驚いたが、選択の余地の無い私は、「もう、どうにでもなれ」と了解した。
それからである。
看護師数人が、私の右足を持ち上げ、台の上に固定すると、
「ウィイーーン、、ドゥルルルルー」
という鋭く鈍い音とともに、人間の肉と骨に穴をあけていった。
内出血していた血が噴き出したはずだ。
骨折の痛みと、麻酔剤による麻痺感から、どれが何の痛みか解らないまま、処置は終わった。
気が付くと、私の右足は、10度の傾きで、ワイヤー線に引っ張られ、医療ベッドの端上に繋がっていた。
そして、脚とベッドの隙間を、タオルの山が埋めていった。
ことの成り行きに身を任せるしかない私は、無口のまま耐えていた。
入院手続きを終えた妻が私のもとにやってきて言う。
「子供たちの夕食作らなくちゃいけないから、私はこれで帰るね」
「わかった。今日はごめんね。でも、本当に助かったよ。ありがとう」
二人の看護師が、移動式ベッドの先頭と後ろにつき、私はそのまま整形外科の入院病棟に運ばれ、六人部屋の入り口近くに置かれた。
いかにも新参者の患者で、勝手の解らない私は、落ち着かない場所に「ポツン」と置かれたのだった。
大変な一日が終わろうとしていた。