【南相馬訴訟】「20mSvで指定解除するな」~ほぼ全域が「放射線管理区域」相当。自主測定で深刻な土壌汚染明らかに。原告「なぜ空間線量だけで判断?」[民の声新聞]
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空間線量が年20mSvを下回ったことを理由に「特定避難勧奨地点」の指定を一方的に解除したのは違法だとして、福島県南相馬市の住民808人が国を相手取り、指定解除の取り消しなどを求めて起こした民事訴訟の第6回口頭弁論が19日午後、東京地裁103号法廷(谷口豊裁判長)で開かれた。2人の男性原告が事実上の「意見陳述」(準備書面の補足説明)を行い、自主測定の結果ほぼ全域で放射線管理区域の基準となる1平方メートルあたり4万ベクレルを上回った事、指定解除にあたって納得出来る説明が無かった事などを訴えた。次回期日は5月18日14時。
【無視される深刻な土壌汚染】
市民グループ「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」は2015年12月から2016年9月にかけて、南相馬市鹿島区と原町区で土壌の採取と測定を実施。測定結果(準備書面8)に関して、末永伊津夫さんが補足説明した。末永さんは2012年10月の放射線モニタリング開始当時から、行政区長としてプロジェクトに協力。自宅の一部を機器の設置場所として提供するなど、土壌採取や測定の様子を間近で見てきた。
土壌調査では、8つの行政区を南北に500メートル、東西に375メートルのブロックに分割。各ブロックの中心に近い地点で、専用の採土器を使って深さ5センチの土壌を採取。計測された1キログラムあたりの土壌濃度(ベクレル)を1平方メートルあたりの土壌密度に換算した。その結果、全196地点のうち、放射線管理区域の基準となる1平方メートルあたり4万ベクレルを下回ったのはわずか2地点のみ。さらに、約25%の地点で1平方メートルあたり40万ベクレルを超えた。100万ベクレルを上回る地点も複数確認された。法廷では、測定結果を数値ごとに色分けして住宅地図に重ね合わせた土壌メッシュマップを大きく拡大したボードが掲げられた。「これでも国や市町村は除染やお掃除が済んだとしている」(末永さん)。
放射線管理区域に関しては、放射性物質を経口摂取するおそれのあるとして「電離放射線障害防止規則」で10時間以上の滞在や飲食が禁じられている。末永さんは「本来、日常生活では考えられない厳しい制約が課せられるような汚染状況において、特定避難勧奨地点の解除が強行された」と怒りを口にした。
しかも、地点の指定や解除にあたって土壌汚染は全く考慮されず、空間線量を測ったのみ。避難指示の解除も、空間線量が年20mSvを下回るか否かが要件で土壌汚染は無視される。
「なぜ国は、土壌の汚染密度を無視するのでしょうか。無視しても絶対に大丈夫だという科学的な根拠を示せるのでしょうか。家の周りの除染だけで解決済みとするつもりなのでしょうか。庭に土壌汚染がなくても、生活圏は放射線管理区域相当です」と訴えた末永さん。最後にこうしめくくった。
「私たちは本当にこの地域で暮らしていけるのでしょうか」
閉廷後、経済産業省前で抗議行動を行った原告たち。左が法廷でも掲げられた土壌メッシュマップ。水色で示された1平方メートルあたり4万ベクレル以下の地点は、わずか2カ所だった
【「納得出来る説明無かった」】
2014年4月から南相馬市原町区の大谷行政区長を務めている藤原保正さんは、これまでに提出された原告45人の陳述書を元に改めて提出された準備書面9を補足する形で、特定避難勧奨地点解除の手続きに関する違法性を訴えた。
「私たちはモルモットにされています。安心して安全な生活をする権利が奪われています」
当初から解除に抗議してきた藤原さんは時折、にらむように被告席に顔を向けながら語った。「他の行政区長とも連携して、福島県や南相馬市に解除に反対する要望書を提出しました。しかし、国は文書で回答を出した事すらありません。東京まで抗議に行っても、ろくに回答出来ない若い職員しか対応しませんでした」。
2014年10月の説明会では、同年6月と同様に非公開にしようとした国に行政区長たちが抗議。ボイコットを口にしてようやくメディアの取材を認めた。「当日は、線量が高いのに解除はおかしいと申し入れましたが、はっきりした回答は得られません。病気になってからでは遅いと言いました。健康へのフォローをすると言うので具体的にどのようにフォローするのかと聞いても回答がありません。回答が無い事は都合の悪い証拠を残さないためではないか、役人が自分の身を守るためではないかと考えてしまいます。国の対応はあまりにもいい加減です」。同年12月の説明会では、当日朝のNHKニュースで同月28日の解除が既定事実のような報道が流れて驚いたという。「これでは説明会ではなくただの報告会ではないか、と怒りの声をあげました」と藤原さんは語気を強めた。
「原子力安全委員会の意見が要求している住民との協議が行われたとは到底言えません。住民が納得する説明もしていません。解除には、説明会などの手続きに違法性がある事は明らかです」
伊達市同様、特定避難勧奨地点制度は南相馬市でも住民の分断を招いた。地域では無く、住宅ごとに指定されたからだ。わずかな数値の差で指定の有無が生じ、「夏にバーベキュー、秋に芋煮会をして仲良く生活していた私たちは世帯ごとに分断され、子どもや妊婦がいるかどうかによって差をつけられ、壁を一つ隔てているだけの隣の家との間にも差が出ました。指定されたかどうかで区別する理由はありません」。指定を受けられなかった家庭のやり場のない怒りは、指定を受けられた家庭へ向けられた。国の勝手な線引きが要らぬあつれきを生んでしまったのだ。
藤原さんは言う。「陳述書に書いた懸念や不安は、放射線の専門家でもない私たちにとってごく自然なものです。反対する私たちの声を聞かず、解除が強行されました。違法な解除を取り消していただきたい」。
法廷で事実上の「意見陳述」を行った末永伊津夫さん(左)と藤原保正さん。原発事故さえ無ければ、何度もマイクロバスで東京地裁に足を運ぶ事も法廷に立つ事も無かった=経済産業省前
【「いつまで被曝させるのか」】
この日の口頭弁論でも、原子力被災者生活支援チームの松井拓郎支援調整官や原子力災害現地対策本部の紺野貴史次長ら、内閣府の官僚が被告席に座った。2人は今月18日の浪江町議会全員協議会にも出席。今年3月31日での避難指示解除(帰還困難区域を除く)に関する説明を行った。その時も空間線量が年20mSvを下回った事を解除要件の一つにしていたため、浪江町議から「土壌調査やってっか」と厳しい口調で迫られている。しかし国は、避難指示の解除にあたって土壌汚染は考慮しない姿勢を貫いている。
山本太郎参院議員は2016年11月18日の参議院「東日本大震災復興特別委員会」でこの問題を取り上げ、「空間線量率以外は関係ないんですよ、汚染に関しては。これ異常なんですよ」、「年間20ミリシーベルトで人々を帰す帰還政策には土壌汚染の要件は必要がない、それを基準としない、空間線量のみで対応。これを当然だという政治家とか官僚がいたとするならば、税金から給料もらう資格ないと思いますよ」、「チェルノブイリの事故では、ロシア、ベラルーシ、ウクライナでチェルノブイリ法を制定、空間線量率と同時に土壌汚染も測定している」などと国の姿勢を厳しく質した。しかも、一般公衆の追加被曝線量は年1mSvであるはず。「なぜ俺たちだけ20倍に引き上げられるのか」と原告たちが怒るのは当然だ。
法廷では、原告代理人弁護士や裁判長から何を尋ねられても「検討します」、「文書で回答します」と答えるばかりの被告代理人弁護士に傍聴席から失笑が漏れた。次回期日までに書面で回答出来るか否かについても「検討します」と答え、谷口裁判長が思わず声をあげて苦笑する場面すらあった。この辺りに、住民の被曝リスクや不安など無視し続けている国側の姿勢が現れていると言えよう。
閉廷後、原告たちは経済産業省前で抗議集会を開いた。原告団の小澤洋一事務局長は「いつまで私たちを被曝させるのか」とマイクを握った。この問いは、いつまで待っても検討も文書回答もされない。
(了)
Author:鈴木博喜
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