1、開け ゴマ!(ひらけ ごま!)

     Open Sesame!


 俺、誤解してたようだ・・・。「開け ゴマ!」という呪文の意味。


 子供の頃に読んだアラビアンナイト(The Arabian Nights)の中にあった「アリババと40人の盗賊」の話に出て来る、盗賊が洞窟を開く時に唱えた呪文。


 「セサミ・ストリート」っていう子供向けのテレビ番組もあったし、ゴマはSesame(セサミ)だから、食べる胡麻のことだと思ってた。硬い殻で覆われた胡麻を開くように、閉ざされた洞窟の扉を開くから、「オープン セサミ!」で「開け 胡麻!」だと思ってたんだ。何の違和感もなく、そう信じ込んでた。


 ところが、今から5年前、大学3年の時だったと思う。高校の同級生で坊主になる勉強をしていた「信錠法師」というニックネームの山田信錠と同窓会で会った。こいつとは高校時代、1年の時はクラスも同じだったし、3年間野球部で同じ釜の飯を食った仲だ。俺達の高校は東京の杉並にある水道道路沿いのグローバル高校。海外帰国子女の受け入れも積極的にやっているから、国際色豊かでまさに「名は体を表す」高校だった。野球部は本当に弱かったが、今思うとあれはあれで、とてもいい経験を積ませてもらったと思っている。


 黒須校長という大柄な校長が、朝礼でよく話していたのは、
「これからの時代を生きて行く上で大切な考え方は、原始のように『地球人』としての意識を常に持ち続けることです。環境の問題もしかり。『インターナショナル』という『国』の『際』の問題意識ではなく、『全地球的』な問題意識で『グローバル』に物事を考えることが肝要です。」
 山田はそういう話を聴いて、或る日、決然と俺に言った。
「俺はグローバルにモノを考えるのって大切だと思う。だからこそ、そういう考え方を、今居る地域に還元することがもっと大切だと思う。言わば『グローカル』だ。あははは(^O^)。だから日本て言う国の中で、終わりが始まりにつながる輪廻思想を体現し、古きを温めて新しきを知る『坊主』になる!。」


 その頃、俺は何になりたいっていう具体的な夢はなかったから、山田は偉いなあ、と思ったことを覚えている。その時から僧名は本名で行くと言ってたんで、敬意を表して「信錠法師」と呼ぶことにした。野球部は全員五分刈り以下の短さの坊主頭って決められてる野球部だったから、俺がそう呼ぶうちに、みんなが「信錠法師」と呼ぶようになって行った。


 信錠法師は、同窓会で顔を合わせてすぐ、少し気になることを言った。
「僧って、何て俺にピッタリな仕事を選んだんだろう。」
 俺は、
「まだ勉強中なのに、どうして仕事としてピッタリって言い切れるの?。」
 って訊いた。すると信錠法師はこう言ったんだ。
「何でって、そんなの生まれる前から決まってるからさ。生きることって運命で決まってる道を選択できるかどうかだから、いろいろなことが解る前にその選択肢を残しておければ成功したようなもんだよね。」
 その時点では、なんか達観するような経験でもしたのかな?くらいに思ってた。


 ところが5分と経たないうちに、同じような言葉を聞いた。 卒業してすぐ同級生の馬蹄沙羅(ばていさら)と結婚した根本天馬(ねもとてんま)が話していた言葉だ。
「大昔から妻になる女は決まっているとしても、最初にその女を愛せた運命に幸せを感じるよ。」 


 ?。こいつらって、みんな運命論者だったのかな?。生まれる前からとか、大昔からとか、2連発の偶然(?)に妙な違和感を感じてた。運命論者だって、「生まれた時から」、くらいだろうに・・・。

  
 学校の学生会館での一次会を終え、居酒屋に場所を移しての二次会で莫迦話をしている時、さっきの根本が「二人の初体験」の話をし始めた。みんな、面白がって相槌を打つもんだから、根本も調子に乗って、
「膝をピッタリくっつけてるから足が開かなくて心の中で何度か呪文を唱えちゃったよ(^O^)。あんまり開かないから『開け ゴマ!』って今度は小さい声を出して言ってみたら・・・開いたんだ!(^O^)V。効果バツグンの呪文!。」


 で、その話を聞いて、信錠法師が、
「『開け ゴマ』って漢字で書けるヤツ、居る?」
 って言った。みんな、
「うわーっ、さすが坊主見習い!。1番いい所で説教クセー!」
 って言ってた。


 でも、俺、なんだか気になってそこにあったグラスのコースターに、「開け 胡麻」って書いてみた。そうしたら、信錠法師が俺の隣に来て、
「話に乗ってくれたのはドク太だけだね。こう書くんだよ。」
と言いながら「開け 護摩」って書いた。みんなは根本の話で盛り上がってた上に、そこに沙羅が来て、
「ねー、何の話してんの?。盛り上がってるけど・・・」
 って言ったもんだからスゲー大爆笑!。


 でも、その時の俺は、信錠法師を別のテーブルに連れ出して訊いた。
「この護摩って言う字、セサミじゃないよね?」
「ん?。何の話?。」
と、信錠法師。

「『開け ゴマ!』って英語で言うと『オープン セサミ!』って言うじゃん?」
 すると、納得した顔をして、ゆっくり信錠法師は話してくれた。
「そういうことか。うん、違うよ。セサミならドク太が書いた字でいい。この『護摩』は、梵語、つまりサンスクリットなんだ。密教の秘法の1つで、『護摩を焚く』とか言うでしょう?。不動尊などを安置して、護摩壇を設(しつら)えて、そこで火を焚いて祈祷(きとう)することを言うんだよ。」


 ふーん、そうなんだ・・・。確かに「護摩を焚く」って言葉は知ってる。でも、アラビアンナイトで言う「オープン セサミ!」のゴマは胡麻で、日本で言う「開け ゴマ!」は、サンスクリットの「護摩を焚く」方の護摩で・・・。なんだか難しいもんなんだなあ・・・。


 きっと、変な顔をしてたんだと思う。信錠法師が
「根本達の話、盛り上がってるからテーブルに戻ろうか?。」
 って、言ってくれた。でも、何かが引っ掛かってる。ゴマが歯と歯の間に挟まってるみたいな妙に気になる感じ・・・。


「で、呪文を唱えたら、どうして沙羅は足を開いたんだよ。」
「もう、やだー。人の話で勝手に盛り上がんないでよね!。それに何でこんな話をしてんのよ!。あんたも私のこと売るなんてサイッテー!。」
 根本の背中をバシバシ叩きながら、でも、言葉のわりにはそんなに怒ってる感じでもない沙羅。目立たなくて、おとなしいコだった。でも、根本と付き合い始めた頃からクラスの中心的存在になって行ったような気がする。とにかく明るくなった。メガネをコンタクトに変えた。肩に掛かっていた髪をポニーテールにした。今もポニーテールで、少し金色に見えるところがあるヘア・メッシュを入れてる。


  「開け ゴマ!」の件の追求はいろいろなヤツから次々に出て来て、次第にそれをかわすのにも疲れたっぽい頃、沙羅がポツリと言った。


「だって、聞こえたんだもん・・・。」


「えっ?。聞こえたからアシ開いたの?。」
 柴田らしき追及の声。
「だって、初めてだったから、キッカケが解らないじゃない?。でも、この人も初めてだったから、一所懸命だったし・・・。」


 学生の頃、根本から沙羅が2人目だって聞いた気がする。俺に見栄を張っていたのか、沙羅に嘘をついたのか、根本しか本当のところは解らない話だ。


「ふつう抱きしめて耳元で囁かれたり、胸触られたりしながら足に手が伸びて来たら力が入らなくなってアシ開いちゃったりするけど、ガチンコで下から膝頭(ひざがしら)掴まれたら、やっぱり力、入っちゃうよね?」
 沙羅が言う。女子達はうなづいてるのもいるし、「やーねー。」とか言いながら、目が爛爛と輝いて前のめりになってるのもいる。たぶん、うなづいてるのが経験者で、目が爛爛なのが未経験者かな・・・と漠然と思った。


 一人根本だけが、顔を真っ赤にして
「その『ふつう』って、お前、あの時初めてじゃなかったのかよ!」
 思いっ切り怒りモード!。夫婦喧嘩が始まりそうな勢いだ。
「ばか(^^)。その後、あんたとどうしたら足が開きやすいか、一緒にトライした成果を話してるんでしょうが・・・。今、思いっ切り妬いてたよね?。まだ、可愛いトコ、残ってるんじゃない?。あははは(^O^)。」
「ばか。お前こそ、俺のこと、売ってるようなもんじゃねーか!。」
 どうしたらいいかわからないような顔をして、根本が吐き捨てるように、でもテレながら更に顔を真っ赤にした。回りからは冷やかしの声が「ヒューヒュー」と上がったが、沙羅はお構いなしに話し始めた。


「でも、あの時、小さな声で聞こえたの。『開け ゴマ』って・・・。聞こえたのよね、彼の思いが・・・。」 


「まさに、言霊(ことだま)だな。」
 信錠法師は一人ゴチた。未だ別のテーブルに居た信錠法師と俺は、顔を見合わせた。その瞬間、俺の頭の中で『カチリ』とスイッチが入る音がした、ような気がした・・・。既視感(デジャビュ)に襲われる。


『だって、聞こえたんだもん・・・。あなたの言霊(ことだま)が・・・。』





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