僕はタイムマシーンにHOPEと名前をつけた -2ページ目

タイムマシーン9

たしかソウヘイ君は今1人で住んでるところが元々実家だって言ってたな。
場所知っててよかった。
でも僕が知らなかったらソウヘイ君もこんなこと頼まないか場所くらい教えるか。

僕は少し匂いの違う大学の教授棟を後にして薄い記憶を頼りにとりあえず駅に向かった。

池袋に着くと西武池袋線に乗り換えて江古田駅を目指す。
電車内は平日の昼間だけあってそれほど混んでない。でも何か変な感じ。
そう、電車内で誰も携帯電話を持っていないんだ。
1994年でも携帯電話はもちろんあるし持ってる人もいるはずだけどね。

この時代の僕が2009年にタイムリープしたら電車内の携帯だらけの光景にびっくりするはずだ。

この誰も携帯電話を使っていない世界は、2009年よりも戦争も犯罪も少ない、いくらか平和な世界に見えた。実際は戦争も犯罪も同じくらいあるんだろうけどね。その時の僕はそう感じたんだ。

江古田駅にはすぐに着いた。小さな駅で、でも駅の周りには小さな飲食店やゲームセンター、パチンコ屋などが並び学生が多い。

ボア付きのコーデュロイのブルゾンに古着のリーバイス、コンバースを履いた僕の恰好はこの15年前の日本でも全く違和感がなかった。よかった。

ソウヘイ君の家には、8月頃にワタル君と一緒に一度だけ行ったことがある。
たしかソウヘイ君の古いノート型のマッキントッシュをワタル君が譲り受けることになって取りに行ったんだ。その時はソウヘイ君がいたからただついて行っただけで、なんとなくしか道を覚えていない。

でも、ソウヘイ君の家の中のことはよく覚えているよ。ソウヘイ君の家は元々両親と住んでたっていう4LDKくらいのごく普通の家だ。今はそこに1人で住んでるわけだけど家に入ると全然ごく普通の家じゃないんだ。家中にコンピュータ機器がびっしり。大きなサーバーが何台もあってその熱を冷やすために一年中空調が効いている。
モニターなんかたくさんあってめんどくさいから数えなかったよ。
小さなキッチンスペースだけが唯一そこで生活してる人がいるってことを教えてくれる。
キッチンといっても小さなダイニングテーブルと椅子が一脚、灰皿とコーヒーサーバー、マグカップが1個あるくらいだけれど。

こんなにたくさんあるコンピュータを何に使ってるのかはよくわからない。ソウヘイ君に聞いたところで僕の興味をひくことだとは思えないしね。

タイムマシーン8

ドカッ!
突然後頭部に衝撃が。
「痛ってぇー!」
後頭部にデカいコブができたような痛み。
「ファック!なんだよ。」見回すと、その1994年のソウヘイ君の部屋にはソウヘイ君の姿どころかコンピューターも机なく、あるのは部屋の中一杯に天井近くまで積み上げられたダンボールの山だった。
僕はそのダンボールの山の一角の上に無造作に置かれたアルミ製の棚の板に後頭部をぶつけていた。
「痛ってぇけど顔とか目じゃなくてよかった。タイムリープするときは移動先のその場所の状況を考えないとダメだな」

部屋の外に出てみると、そのドアのプレートには何も書かれてなかった。
「えーっと1994年てことはソウヘイ君は14歳か。」14歳のソウヘイ君・・・。
簡単に引き受けてきたものの意外と大変かも。携帯に電話するわけにもいかないし、どこにいるのかしら。

タイムマシーン7

「うーん。これは乗り物じゃないし時空を移動するものだからどこへでも行けるわけじゃないよ。1994年に行けてもアメリカに行くのはすぐには難しいなぁ。僕貧乏だし。」
「それはそうだ。でも生きてる時代に行けるってことは会える可能性は0ではないね。今じゃ0だけど。」「じゃあその限りなく0に近い可能性を信じて待っててよ。さて、暇だし行ってこようかな」
「カートによろしく。」
「イエス」
HOPEに「19941103」と入力。STANBY。
「行ってきまーす」
「ちょっ、ここで・・」
一瞬ソウヘイ君の声が聞こえて僕は目の前が真っ白になった。