はじまりは、リウーを階段でつまづかせた一匹の死んだ鼠だった。やがて、死者が出はじめ、医師のリウーは死因がペストであることに気付く。新聞やラジオがそれを報じ、町はパニックになる。死者の数は増える一方で、最初は楽観的だった市当局も対応に追われるようになる。
 やがて町は外部と完全に遮断される。脱出不可能の状況で、市民の精神状態も、生活必需品の価格の高騰も相まって困憊してゆく。

 

 ペストって、日本ではほぼ流行したことのない感染症ですね。ヨーロッパでは、中世に人口の30%から60%もの死者を出したことで、歴史を変えた病気です。ペストは、ネズミ、イヌ、ネコなどを宿主とし、ノミが媒介してヒトに伝染します。細菌による感染症で、有効なワクチンは存在しません。結核と同じストレプトマイシンなどの抗生薬が効きます。予防薬も抗生薬を用います。小説の中では、まだストレプトマイシンは、未知の存在です。

 どういう病気なのかと興味があったので、この小説のタイトルは気になってました。ドキュメンタリーのようですが、全くの想像にによる小説です。

 

 読んでよかったです。なんというか、私が西洋の小説に期待するものの全てがあります。

 

 ランベールという新聞記者がオラン市に取材のために訪れていたのですが、ペストのためにオランは封鎖されてしまい、ランベールは知り合ったばかりの恋人に会えなくなってしまいます。彼は、何とかオランからの脱出を試みるのですが、なかなかうまく行かない。リウーと知り合い、彼の妻が病気の療養で遠くにおりリウーが会いに行けない状態だと知り、自分の幸せだけを願う自分を省みる。

 

 オトンという判事の子供が、ペストにかかり苦しみながら死んでしまう。それを見たイエズス会の司祭パヌルーは、それまでミサでしていたペストは神の下した罰だというような説教を変え、人々に善をなすよう求める。キリスト教には原罪という概念がありますよね。でも、未就学児にどんな罪があるのか、無茶なこというなと思うじゃないですか・・・。それは、キリスト教徒たちも思うことで、「カラマーゾフの兄弟」でも延々論じられているのですよ。

 

 タルーは、ペストのための保険隊を組織したいと、医師のリウーに告げ、たずねる。「神を信じていますか、あなたは?」

 リウーは、ちょっとためらったが、「信じていません。・・・」

 タルーは、聞く。「なぜ、あなた自身は、そんなに献身的にやるんですか、神を信じていないといわれるのに?」

 

 この後の答えが、私は気に入っているのですが、コピペしません。知りたい方は、この小説を読んでください。1947年に刊行されているのですが、この時代、医者のような知識人は、もう神など信じてはいなかったということですね。