乱 デジタル・リマスター版 [DVD]/仲代達矢,寺尾聰,根津甚八

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 戦国時代、齢70の武将、一文字秀虎は、隣国の領主2人を招いた巻狩りの場にて、突然、隠遁を表明する。秀虎は「1本の矢は折れるが、3本束ねると折れぬ」と3人の息子たちの団結の要を説くが、三男の三郎は3本の矢を力ずくでへし折り、父親の弱気と甘さを諌める。秀虎は激怒し、三郎とそれを庇う重臣の平山丹後をその場で追放する。しかし、客人の一人であった隣国の領主、藤巻は三郎を気に入り、婿として迎え入れる。
 一文字家の家督を継いだ太郎だが、正室である楓の方に唆され、父を呼び出し、今後一切のことは領主である自分に従うようにと迫る。立腹した秀虎は家来を連れて、次郎の城に赴く。親の仇である秀虎を城から追放できたことを喜ぶ楓の方。太郎から事の次第を知らされていた次郎もまた「家来抜きであれば父上を迎え入れる」と秀虎を袖にしたため、秀虎は失意とともに、主を失って無人となった三郎の城に入る。
 そこに太郎・次郎の大軍勢が来襲する。家来や女たちはみな殺され、燃えさかる城からひとり発狂して出てきた秀虎を、次郎はそのまま見過ごす。また、この戦いの中、太郎は次郎の家臣に狙撃されて死す。一文字家の家督は次郎のものとなる。そして・・・。


 1985年に黒澤がメガホンを取った日仏合作映画。黒澤作品の中でも海外での評価は、『七人の侍』『用心棒』に並んで高い。それにひきかえ、日本では「???」みたいな評価。

 それもその筈、西洋の話なんですね。もちろんシェイクスピアの『リア王』の基づくということを差し引いても、戦国武将の話としてとても奇妙。

 三郎の城で太郎・次郎の襲撃を受けて、家来や女たちが皆殺しに会う中で、「もはや、これまで」と切腹もしようとしない秀虎では、戦国武将のリアリティが全然感じられない。西洋人は、切腹なんかしないのが普通ですから、変な感じは受けないでしょう。

 加えて、内面まで描写されているのは、秀虎と楓の方くらいなのに、どちらもいやな人物で、感情移入できない。白黒時代の黒澤映画は、三船敏郎や志村喬が主演だったせいか、かっこよくて心熱い主人公に感情移入できました。

 これって、監督が年取ったせいなんだろうなと思います。秀虎は、黒澤自身らしいし・・・。映画がなかなか撮れない時期も続きましたよね。色々嫌なことがあって、こういう秀虎みたいな性格になっていたのかもしれない。

 テーマも家族や主従の間で、権謀術数、裏切り、殺し合いの連続(西洋の中世は、大体こんな感じ)で、人生を無意味な殺戮の連続するカオスとして書いています。なので、西洋人は違和感を感じてないと思います。でも、これまでのヒューマンな黒澤作品を観てきた日本の観客は、期待外れの感を持っても不思議ではないですね。

 演技や馬や合戦シーン、美術やショットの美しさの見事さは、カラーになっても素晴らしい。それに無駄に金を使ってない。三つめの城を焼くシーンは、四億円かけた価値があるものだと思います。

 ただ、この作品は、ちょっと文学作品を読み慣れてるような人向けですね。

 でも黒澤もすでに鬼籍の人になってるし、西洋文化を丸ごと自分の物にして、世界中の人に理解出来る優れた映画を量産した黒澤明に対して、日本人も偏見のない称え方をしてもいい頃じゃないだろうか。