「分かち合い」の経済学 (岩波新書)/神野 直彦

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 深刻な経済危機が世界を覆い、不況にあえぐ日本でも失業が増大し、貧困や格差は広がるばかり。この「危機」の時代を克服するには、「痛み」や「幸福」を社会全体で分かち合う、新しい経済システムの構築が急務。日本の産業構造や社会保障のあり方を検証し、誰もが人間らしく働き、生活できる社会を具体的に提案する。

 この本を手に取ったのは、神野直彦先生が Video News(10月22日放送回・有料「分かち合い」のための税制改革のすすめ)にゲスト出演して、この本の内容を説明しやすい税制の部分について2時間ぐらいで喋ってらして、色々意外な話を聞いたので文字で確かめようとしたからです。

 久々の岩波新書で、格調高いわ。ギリシャ神話からの引用満載で、逆に経済学の本にありがちな数字や数式は出てこないので、文明論の本という感じです。

 つまみ食い的に、内容を取りださすと、


 日本の財政が悪化したのは、バブル崩壊後に景気浮揚を狙って、減税を繰り返したから。しかし、石油消費型の経済は、もはや成長の限界を迎えているので、減税したお金を投資に回しても経済は成長しない。

 減税できるのは富裕層の所得税と企業の法人税なので、所得の再分配機能が弱まり格差が拡大し貧困が社会にあふれ出てきた。

 重化学工業社会からサービス産業中心の知識社会への移行をしなければならない。サービス産業に必要とされる人材は、男女を問わないので、女性が社会に出て働けるように育児や養老を家庭から社会サービス移行していくべきだが、それがないので女性労働者がパート・非正規の労働者になってしまい、格差が生まれてしまう。

 また景気の悪い時期にあたると新卒労働者が非正規になってしまい、これも格差を生んでしまう。

 同一労働・同一賃金という原則を取り入れて日本の正規・非正規労働者の問題を解決し、失業者を再教育しサービス労働に従事できるようにする教育サービスの拡充が必要で、それがないし日本政府が重工業を助けるエコ・カー減税みたいな施策ばかりやって重工業の延命をするので賃金が低減してくのだという解説を読むとなるほどそうだよねと思います。

 でも、日本に知識社会を担う人間を育てる教育ってこれまで行われてきていないので、フィンランドのような教育制度勉強してくる必要があるのではないかなと思います。

 一番驚いたのが、生活保護中心で社会保障をやっている英米型の国や日本では失業・貧困・格差が溢れかえるという話でした。確かにアメリカの失業率は半端ではないですね。

 何故かと言うと、生活保護を受ける人よりワーキング・プアの方が貧しくなるので、生活保護を受ける人にバッシングが働く。ミミッキング(貧しいふりをして不法に生活保護を受けようとすること)をする輩も出てくるので、審査を厳しくしろと言う声が上がる。そうすると生活保護を本当に必要とする人の中に生活保護を受けるのをあきらめてしまう人が出てくる。

 しかし、保育所サービスや在宅・施設の養老サービス、医療サービス、教育サービスを無条件で提供しすれば、生活保護は少しのお金ですむし、税金を払う中産階級の人たちが自分たちがサービスを受けられるので、負担に賛成しやすくなる。

 一部の貧しい人だけが受ける生活保護だけのために税金を負担するのは、中産階級が拒否的になる。

 Video News の番組のなかで、日本では税制によって所得階層別に負担はこれくらいで給付はこれくらい受けられるという比較表がないのに、何を前提に議論しているのかと海外の学者に聞かれたと言う話が出てて、日本には納税者番号がないので所得と負担の数字が曖昧なのだと言う話がされていました。家計調査から算出してる状態だそうです。比較と言うと海外との比較ばかりしているという情けない話をしてました。


 前にも書いた、社会保障番号でも納税者番号でもいいけど最初にやらなきゃいけないのはそれなのね。

 Video News では、新自由主義に対する批判とか特にされていなかったけれども、本にはアメリカのCIAの行状などにも言及して厳しく批判しています。

 「分かち合い」は神野先生がスウェーデン語の「オムソーリ」という言葉を日本語に直したものだそうですが、良い響きですね。