野性の少年 [DVD]/フランソワ・トリュフォー,ジャン=ピエール・カルゴル,ジャン・ダステ

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 1797年フランスのラコーヌの森で、裸の少年が猟師によって目撃され捕獲された。その後、野生児はサン=タフリクの養育院に送られ、さらに続いてロデーズに送られてそこで数ヶ月をすごした。捕獲当時11~12歳程度だったとされる。
 少年はリュシアン・ボナパルトの命令によりパリに移送され、多くの見物客に迎えられた。このとき、数ヶ月もすれば少年は無事に社会復帰し、野生生活を送っていた経緯を自らの口から話すようになるだろうと楽観視されていた。
 少年は、医師のフィリップ・ピネルに診察を受ける。それによると、少年の感覚機能は非常に低下していた。視線は定まらず物を凝視するということがなく、物のにおいを嗅ぐ癖はあるものの嗅覚も未発達だった。クルミを割る音のような本能的な欲求に関係する音には反応するが音楽などにはまるで反応せず、触覚も視覚との連動性がみられない。また、叫び声をあげることはあるが言葉を発声することはない。知的能力も遅滞しており、思考力や記憶力が欠如していた。ピネルは知的障害児の実例と少年の状態との類似性を指摘し、少年はおそらく先天的な知的障害であり治癒される見込みが薄いと推測した。
 ジャン・イタールはこのピネルの結論に納得がいかず、少年に適切な教育を施せば改善が見込めると考えた。イタールは少年を引き取り、ヴィクトール(Victor)と名づけて1801年初頭から5~6年間にわたって人間らしさを取り戻すための熱心な教育を行った。


 これは、大学で教育学を専攻していなくても、教職課程を取った事があれば聞いた事がある筈のJ・M・G・イタール著『新訳アヴェロンの野生児―ヴィクトールの発達と教育』の映画化です。イタール役をトリュフォー自身でやっています。

 形式的にはほとんどドキュメンタリーのような感じなのですが、やはり劇映画で、ある程度教育を施した後のヴィクトールがイタールの家から逃げ出し、森をさまよい民家の鶏を盗もうとして追われるなどした後、イタールの家に戻ってくるところで終わるというヴィクトールの人間化への希望を感じさせる終わり方になっています。
 ですが、これでは飼い犬や飼い猫となんら変わらない訳で、映画を見る限り、ヴィクトールは善悪の判断のような人間らしさを残しているものの、人間の社会の中で暮らすようなスキルを身につけるところまで行かなかったようです。

 特に神経言語学でいう言語獲得の臨界期(12歳ぐらい)を過ぎていたため、ヴィクトールが耳から聞くだけでは言語を習得出来なかったことが大きかったようです。

 こういう事例をあげて、幼児期から少年期の一時期子供に集中的に教育期間を設けることの正当性と妥当性が主張されていたように思います。

 この映画、ヴィクトールに色んな事を仕込んでいこうとする過程がたんたんと描かれるだけなのに面白い。

 ヴィクトールが森を恋しがり庭に出て狼さながら月に吠えるような様子も実に「渇望」というものを表現していて、切ない。

 やはり名監督が撮ると「表現」というものになりますね。

 大学の時にこの映画見せてくれると良かったのにと思いました。