私は名古屋の近郊に住んでおりますので、歌舞伎見物といえば○園座だったのですが、年に二ヶ月しか公演がないので、「勧進帳」「道成寺」「助六」「仮名手本忠臣蔵 一力茶屋の場面」を繰り返しみたのでございます。お客の入る演目なんですよね。最近はほんとに御無沙汰ですが・・・。

 フェリーニの『カビリアの夜』とこの『忠臣蔵』のお軽を比較するなんてあまり思いつかないことかもしれません。私も聞かれてとっさに出て来ました。

 お軽は勘平の妻ですが、勘平の仇討の軍資金つくりのために茶屋に自分を売るのですね(苦界に身を落とすなんていう表現の方が適切か)。他人のために娼婦になるような人なわけです。彼女は稼いだ金を自分でため込むことなど出来ない。すごく人の良い女の人としてこの段で演じられています。

 世の中にはこういう人って稀にいると思います。こういうのを「無垢な娼婦」というのではないかと思うのです。これに対してカビリアを形容する語句を私も考えたのですが、彼女は「夢見る娼婦」というぐらいが適切ではないでしょうか。無垢でなくとも無邪気でなくとも誰でも夢は見られます。自分を純粋だと思うくらいたやすいことはない筈です。

 『カビリアの夜』をご覧になる方たちの多くがカビリアに感情移入して、彼女と一緒に夢をみるので、この映画は興行的にも成功したのだと思いますが、物語が語っていることは神の視点から視た厳しさがあるように思います。もしこの話がハッピー・エンドだったら最近のハリウッド映画になってしまいます。

 私の視点ですが、娼婦仲間と同じ視点になってしまいますね。「あんた、そりゃ無理よ。」みたいな。

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 ここからは、歌舞伎に興味のある方だけに読んでいただければいいのですが、この『仮名手本忠臣蔵』の七段目祇園一力の場のお軽の演技で私が忘れられないのが、七代目尾上梅幸丈のTVの追悼番組で見たお軽なのです。ほんとに人の良い朗らかな小母さん(結構お年でしたので)という演技でした。お軽は、人の良さが前面に出ないと役としておかしくなってしまうという事にその時気がつきました。その時の七代目の演技が、この段のお軽の演技をみるときの私の基準になっております。
 この時の追悼番組では『摂州合邦辻』もやっておりまして、そのお辻にも感銘を受けました。珠玉の名演を集めた番組構成で、これは見て良かったと思いました。舞台でみる七代目はもうかなり年をとられて容姿は無残という感じでしたから・・・。

 こんかい、七代目のDVD画像貼れたらと思いましたが、ありませんでした。しかし、文化勲章受章者の演技もきっと一見の価値はあるでしょうね。