ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』

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　精神遅滞の青年チャーリイは子供の頃、知能的には正常であった妹に性的な乱暴を働いたと家族に誤解され、母親に捨てられた。別れ際に彼女が発した「いい子にしていれば迎えに来る」という言葉を大人になっても信じている。知的障害のため、幼児並の知力しか持っておらず、そのことでパン屋の従業員にからかわれたり、騙されいじめられていることや、母親に捨てられたという事実は理解できない。彼は自身がスピナーと名づけたガラクタを眺めるのが趣味であった。誰にでも親切であろうとする、大きな体に小さな子供の心を持った、おとなしい性格の青年だった。
　ある日、彼はパン屋の仕事のかたわら通う精神遅滞者専門の学習クラスで、監督者である大学教授から、開発されたばかりの脳手術を受けるよう勧められる。先んじて動物実験で対象となったハツカネズミの「アルジャーノン」は、驚くべき記憶・思考力を発揮し、チャーリーの目の前で難関の迷路実験で彼に勝ってしまう。この手術の人間に対する臨床試験の被験者第1号として、彼が選ばれたのだった。

　私が見たのは最近ですが、遺伝子操作で知能を高められたラット「ホビー・J」のニュースが昨年の秋に世界を騒がせました。ついに「アルジャーノン」が誕生してしまったわけです。人ゲノムの解読が完了して数年のうちですから、科学の進歩に最近加速度がついてきたようです。

　作品の執筆（１９５９年）から、ちょうど半世紀。外科手術という方法ではなかったけれど、この作品はすぐれて未来を予測した物だったわけです。

　『５番目のサリー』のような作品が最近は有名になっていますが、ダニエル・キイスといえばこの作品だと思います。作者自身もどうしてこんな話を書けたのかわからないとインタヴューで答えていたという傑作SF。

　
　この作品のテーマは「知の哀しみ」でしょうか。チャーリー・ゴードンは、IQが高くなるにつれて周りの人間の彼に対する態度の本当の意味を知るようになる。そしていったん賢くなった後にその知能が衰えていくときの悲しみ。

　"アルジャーノンに花束を"は、「僕の友達だったネズミのお墓にお花を供えて下さい。」という意味です。