Yasha(夜叉) (1) (別コミフラワーコミックス)/吉田 秋生

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 女性とも見紛う綺麗な顔立ちの美少年・有末静は、心優しい母・比佐子と沖縄の離島・奥神島で2人暮し。友人の永江十市やその兄・茂市らに囲まれ、平凡で健やかな幸せな生活を送っていた。
 、そんな楽しい日々は長くは続かなかった。突如飛来したヘリから降りた米陸軍グリーン・ベレーの作戦行動により母は殺され、静は母の元婚約者である雨宮協一郎によって連れ去られてしまう。その一部始終を見ていた十市は、それから6年後、静を心配しつつ父の転勤により上京した東京で、幼馴染の反町鉄男と共にバイト中だった。そこで稼いだ資金でアメリカに居る静に会いにいこうと思っていたのだ。
 一方、洛北大学生体科学研究所で大学院修士課程のウィルス研究に従事していた茂市は、師事していた篠原教授の招きでウィルス学の博士として赴任することになった静と思わぬ再会を果たす。6年前とは全く違った雰囲気を纏っていた静に戸惑いつつも再会を喜んだが、そこに静の双子の弟を名乗る雨宮凛という男が現れる。その言葉通り、静と凛は髪形こそ違うものの、それ以外は見分けがつかないほどそっくりだった。しかし、この男が何を目的に今になって静の前に現れたのか、あまりにも謎が多すぎた。ただ、その瞳に宿す暗い光はやがて未曾有の惨事を引き起こし、兄弟で血で血を洗う骨肉の争いを招くことになる。


『BANANA FISH』後に発表された『BANANA FISH』と作品世界を共有する吉田秋生のバイオレンス・アクション。

 この作品では、神経細胞成長因子を組み込まれたDNAを持ったデザイナー・ベビーとして生を受けた一卵性双生児の片方として、より分かりやすく、人間とはいえないVulnerableな存在として周囲との戦いを演じているが、双子の弟が敵役を引き受けるというわかりやすい構図になっていて、作者の被害妄想的世界観が解体に向かっていることを示唆している。

 双子の性格の対称性が、「愛されて育った」か、それとも「利用されて来た」のかという構図で説明されていて、わかりやすくなった反面、パワーを失った感は否めない。

 そして当たり前だが、周囲の人間たちは愛されて育った静に徐々に惹かれていく。終には、凛も命を懸けて兄を守ろうとする。

 ここで、このシリーズで初めて人格を持った女性が登場している。静の母「比佐子」と傭兵として雇った「ルー・メイ」。『BANANA FISH』にアッシュの母や、彼に味方する女性がいなかったのと比べると大きな変化だ。

 人間、年をとると丸く優しくなるんですよね。