大いなる助走 <新装版> (文春文庫)/筒井 康隆

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村上春樹のレヴューを書いたときに、文学賞の取りこぼしをネタにもう一つ書いてみようと思いました。

有名な筒井康隆の直木賞3回落選の私怨をこめて書かれたと言われる『大いなる助走』(1979)。

主人公のあるエリートサラリーマンが自社の悪業を暴露した小説を書いて辛気臭い地方同人文学誌に発表し、それが中央の編集者の目に止まって「直廾賞」の候補となったは良いが会社をクビになって退路の無い主人公は、なんとしても賞を得るために賄賂を渡し更に自らの体を売って「直廾賞」選考委員を買収するが、結局は買収も何も関係無いめちゃくちゃな選考の末「直廾賞」落選となり、怒りに狂った主人公が次々と審査員を襲う。

 1968年から直木賞に3度候補として挙げられたが(1967年『ベトナム観光公社』、1968年『アフリカの爆弾』、1972年『家族八景』)選考委員にSFに対する理解がなかったことから落選。このときの選考委員の川口松太郎だかに「勉強のしなおしだな。」と言われたとか。

 学生の頃、この話を文学好きの友人から聞いて読んでみたんですけど、私の感想は「作家っていいよなあ。本当に殺さなくて作品で昇華できておまけにお金まで稼げるんだもん。」というものでした。


 筒井康隆(敬称つけれません。)が直木賞に値していたかどうかですけど、もちろんしていたと思います。当時の男子学生に絶大な人気がありました。若者に人気のある作家は保険をかける意味でも授賞させておかなければいけません。そうでないと選考委員の老大家自身の権威付けに文学賞を使うというようなものになってしまいます。

 また、映画研究会に所属していた私の別の友人が書いた映画のシナリオを読んだ周囲の感想が「筒井康隆」というものだったように、幾多の亜流と真似が生まれた。そのなかでも、ある批評家が書いていたように「筒井の真似をして書かれた作品にはない独特の叙情性が筒井康隆にはある。」と私も思います。


 昔の作家の方々はホントに文学賞を欲しがっていたようで、これは生活がかかっていたからだと思います。いまとは、隔世の感がありますね。