博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか [DVD]/ピーター・セラーズ,ジョージ・C・スコット,スターリング・ヘイドン

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 アメリカ戦略空軍基地の司令官ジャック・リッパー将軍が精神に異常をきたし、指揮下のペルシャ湾から北極海にかけて配備されていたB-52爆撃機の34機にソ連への核攻撃(R作戦)を命令したまま基地に立て篭もった。巻き込まれた英国空軍のマンドレイク大佐は将軍の閉じこもる執務室から出られなくなり、リッパー将軍の話相手となる。なお爆撃機のそれぞれには第二次世界大戦で使用された全爆弾・砲弾の16倍の破壊力がある核兵器が搭載されている。

スタンリー・キューブリック監督、ピーター・セラーズ主演で、1963年制作・1964年に公開されたイギリス映画。正式なタイトルは、『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』で原題は、"Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb"なので、Dr. Strangeloveが「博士の異常な愛情」と訳されたわけでこれは題名翻訳の傑作だと思います。

内容は、核戦争の緊張と恐怖を皮肉を込めて描いた意地悪なブラック・コメディ。ピーター・ジョージの『赤い警報』 (Red Alert) という真面目な本を原作にしているが、キューブリックはストーリー構成段階で題材の観念そのものが馬鹿げたものだと思い直し、ブラック・コメディとしてアプローチし直したのだそうです。

 わたしは昔、学生時代に学祭で上映されたときに見たのですが、国際情勢の知識も豊富な大学生が観客とあって会場は爆笑の連続。大変楽しい雰囲気の中で見ることができたの懐かしく思い出します。特に笑いがはじけたのが、ソ連の市民生活が物質的に豊かでないことがアメリカの飛行士に皮肉られるところ。

なぜこの映画のことを思いだしたかと言うと、『オルフェウスの窓』でロシア革命のことに触れたから。左翼思想は理論的には正しいという理想論があちこちに巣くっていた大学という場所でのそういう体験が「でも、理想と現実は違うよ。」と雄弁に語っていたなあと私には思えるからです。

 また、核戦争の恐怖ということですけど、核戦争までの時間を現わす時計とかいうものがあって現在5分前というのがときたま話題になりますが、あれを作った科学者って頭いいのかな。5分前とかが60年以上続いていることを時計を作った人たちはどう考えているのか。つまり、これこそキューブリックが馬鹿げた観念と考えたものではないのかと思うのですけど。危険と恐怖は違うものです。地上から核兵器が無くなれば、通常兵器での戦争がもっと拡散するのではないか。60年以上世界大戦が起こっていないのは、核抑止力が働いているからではないのか。正解がわからないことを無暗に不安に思っても仕様がないです。


 この作品は、キューブリックの代表作の一本と位置付けられ、『2001年宇宙の旅』(1968年)、『時計じかけのオレンジ』(1971年)と共に「SF3部作」と呼ばれることがしばしばある。