24年組の一人。山岸涼子さんの代表作を上げるとするならば、『日出処の天子』(1984年)になるのかと思います。

日出処の天子 (第1巻) (白泉社文庫)/山岸 凉子

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聖徳太子の生涯を歴史を踏まえて描いた作品。飛鳥時代を背景に、政治的策謀をめぐらす厩戸皇子に毛人(馬子の長子として描かれている)をはじめとする蘇我家の人々や、崇峻天皇・推古天皇らが翻弄される形で話が進んでいく。

 この作品は面白かったです。変な政治的な史観がないので不快に思うこともなく楽しめました。厩戸王子の人物像と蘇我毛人とのプラトニック・ラブですけど「まさかね。」と思う読者が多かったと思うし、フィクションとしてありだと思います。

 私が印象に残っているのは厩戸の父橘豊日大王が亡くなるシーン。寝室の四隅に黒い人形のようなものが現れ徐々に橘豊日大王に近づき、臨終の瞬間に大王を連れ去るという場面。

 これを見たとき、ギリシャ映画『その男ゾルバ』(1964年)の島の金持ち未亡人が亡くなる場面を思い出しました。未亡人の臨終という場面で、島の貧しい老婆(みんな未亡人なので頭から黒衣をまとっている。)が寝室に入り込んで無言で金持ち夫人の死を待つ。そして、死の瞬間形見わけに部屋の金目の物を持ち去るのです。山岸さんがこの映画を見ていたかどうかわからないのですが、臨終というのはこういうイメージが洋の東西を問わず共通しているのかなと思いました。


 山岸さんは、細い線の流麗な筆致でこういう象徴的な美しく怖いシーンを描くのが大変上手い漫画家だと思います。また、作品の構成がしっかりしており、ストーリーの語り口みても、一度出した伏線はのちにきちんと回収されていて、安心してその作品世界に浸ることのできる数少ない漫画家のひとりです。