点と線―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)/松本 清張

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 数ある松本清張の推理小説のなかで何故『点と線』を選んだかということなんですが、これは日本でしか出来ないトリックだということです。

割と最近になって世界中の列車のタイムテーブルというのは目安に過ぎず、日本のように時刻表どおりに列車が来るのが当然とされているのは他ではないらしいということを知ったからです。

日本以外で正確なのはスイスなどあるらしい。それでも日本の強迫的なまでの正確さはないようです。

私がこの小説を読んだのは中学生か高校生ぐらいの時だったのだが、時刻と乗り物が関係してるせいか、数学的に謎が解き明かされていくようで爽快感があったのを覚えている。

 だが、実際のところ限られた4分間の間にヒトを思い通りの場所で歩かせることが可能だろうか。あさかぜのような特急列車は東京駅で長くプラットホームに停まるだろうから5分早くお時と佐山があさかぜに乗り込むとしたらもはやこのトリックは成立しない。その仕掛けが説明されていないという所がこの小説の欠点なのだろう。

また、警察官がかなり組織を外れた捜査を行うのも松本清張の特徴。ときに何故そんな疑いともいえない疑いで個人的に捜査を始めるのか不思議という印象をもつ作品も多い。

2007年のテレビ朝日系列のテレビドラマでは、この点ビートたけしが鳥飼刑事役をやってその反骨精神が役に合っていた。

 ただ、犯行の社会的背景などが詳しく語られると、他のトリックだけの推理小説とは異なった「社会派推理小説」としての面目躍如の感がある。

また犯人が自殺して事件が闇に葬られる結末を見ると、現実にはこの小説のように巨悪は眠ることが多いのかなと思う。