天国から来た大投手 十三、最後の一球 245 | 六月の虫のブログ

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ソックスは二回の裏、井口とコネルコの連続二塁打で一点を先制し、浩輔は、三回までアストロズをパーフェクトに抑えていた。四回には無死二塁のピンチを背負ったが、後続を断った。四回の裏、ソックスは集中打を浴びせて四点を奪った。森次郎は五対ゼロの楽な展開で、浩輔と交代した。森次郎も八回まで、内野安打二本に抑えて、結局ソックスは七対ゼロで圧勝した。ソックスの強さは本物だ。試合の後、浩輔は「ソックスは四連勝するかも」と森次郎に言った。森次郎が「そうですね」と答えると、「そうなれば、もう俺達の出番はないかもしれない」と浩輔が寂しそうにうつむいた。森次郎は、初戦のことで頭が一杯で、次の登板のことなど考えてもいなかった。確かに、もしソックスが四連勝すれば、移動日を挟んで四戦目は中三日しかなく、中四日で回す先発投手陣では森次郎に登板機会はない。初戦の後、監督のオジーも森次郎の次の登板は第五戦だと告げていた。

初戦の後、井口、A.J.、クリーディとコネルコの五人ではっぴ寿司に行った。そのことは、裕香達、エヌビーシーの取材人にも伝えてあり、彼等もはっぴ寿司に来ていた。裕香以外のスタッフ達は井口を囲み、裕香は森次郎と三人のアメリカ人大リーガーのテーブルに座った。クリーディが「モリ、スタンフォードのアメフト・チームは苦戦しているようだけど、どうなの」と森次郎の方を見た。森次郎は肩をすぼめ「まだ、フォーメーションを把握できていないような感じがする。でもジョー(クリーディ)は、アメフトに詳しいね」。「俺もお前くらいの体格があったらNFLに挑戦していたかも」と笑った。

三人の大リーガーと森次郎は、それぞれの小さい頃の夢について語り合い。裕香は微笑みながら彼らの話を聞いた。A.J.がコネルコに来季の契約について尋ねた。森次郎は驚いて、コネルコの顔を見た。「今季で契約は切れるけど、ソックスはまだ来期のオファーをしてくれていない。ソックスでは珍しいことではないけどね。今はただ明日のゲームに集中するだけさ」と微笑んだ。「ソックスを優勝に導いた四番打者でも来季の契約がどうなるのか分からないなんて、日本では考えられないわ」と裕香は声を上げた。「自分を一番高く評価してくれるところでプレーするだけさ。もちろん来季も、モリやA.J.、ジョーと一緒にプレーできたらいいなとは思うけどね。美味しい寿司も食べられるし」とコネルコはウインクした。

裕香は、三人の大リーガーがすごく知的で考え方がしっかりしているのに驚いた。日本のプロ野球選手は、六本木には詳しいけど、考え方は学生のままで、プロ意識に欠けるものが多い。素質はあるのに、正しい努力をしないで戦力外になる若い選手が多い。コネルコによるとアメリカでもそういう若い選手が多いらしい。「大リーグに定着するためのポイントは三つある。まずは賢いこと。馬鹿だと効果的なトレーニングはできない。二つ目は、馬鹿になること。一見一つ目と矛盾するように思えるけど、そうじゃない。馬鹿の振りをしていると、コーチや監督や先輩の選手達が役に立つことを教えてくれる。その中で自分に必要なものだけ吸収して、不要なものは無視すればいい。賢振ると、誰も何も教えてくれない。三番目は、自分の信念を貫く強い意志を持つこと。女の子やお金や麻薬や遊びの誘惑に勝つこと。引退するまでは節制して体調をベストに保つよう常に心がけることだよ」裕香がコネルコの言葉にうなずくと、「モリ、裕香の誘惑に負けるなよ」と言ってトロを注文した。裕香がコネルコに肘鉄を食らわすと、テーブルは笑いの渦に包まれた。





コネルコ(フリー画像より)彼の背番号「14」は、ソックスの永久欠番になった。